老化細胞除去素材「SENOX25™」とは?タモギタケ由来の新素材を特許・研究情報から解説【2026年7月7日更新】

今回は、近年世界中で注目されている老化細胞(Senescent Cell)を標的とする新素材「SENOX25™(セノックス25)」についてご紹介します。近年、「ゾンビ細胞」という言葉を耳にする機会が増えました。これは正式には老化細胞(Senescent Cell)と呼ばれ、本来であれば役目を終えた細胞であるにもかかわらず、体内に長期間残り続ける細胞のことを指します。

老化細胞は炎症性物質(SASP:Senescence-Associated Secretory Phenotype)を放出し、周囲の正常細胞にも悪影響を与えることが知られています。そのため、加齢だけでなく、生活習慣病や認知症など様々な加齢関連疾患との関係が研究されています。こうした背景から、老化細胞だけを選択的に除去する「セノリティクス(Senolytics)」という研究分野が急速に発展しています。その中でも、日本企業が開発した天然由来素材として注目されているのがSENOX25™です。

出典1:”Senolytics: from pharmacological inhibitors to immunotherapies, a promising future for patients’ treatment”
https://www.nature.com/articles/s41514-024-00138-4
※老化細胞を選択的に除去する「セノリティクス」は、加齢関連疾患の新たな治療戦略として近年急速に研究が進められています。2024年に発表されたレビュー論文でも、薬剤だけでなく免疫療法を含む次世代セノリティクスの研究開発が活発化していることが紹介されています。ここで、「SENOX25™」のアプローチは、レビュー論文の類型で言うと、”Targeting Senescent Cell Anti-Apoptotic Pathways (SCAPs)”(老化細胞の抗アポトーシス経路(SCAPs)を標的とする)に該当すると思います。ただし、レビュー論文では(毒性や副作用の壁のある)医薬品ベースの試みを紹介しているのに対し、「SENOX25™」のアプローチは安全性の高い食用のキノコを素材としている点で現代的かつ実用的です。

1.SENOX25™とは?
SENOX25™は、日本医療製薬株式会社が開発を進めている天然由来素材で、タモギタケ(Pleurotus citrinopileatus)から得られます。タモギタケは食用キノコとして古くから親しまれており、
・鮮やかな黄色い傘
・扇状に広がる特徴的な形状
・独特の香りとうま味
を持つキノコとして知られています(本記事の写真参照)。長年食経験のあるキノコであることから、食品素材としても期待されています。

2.なぜ老化細胞に注目されているのか
通常、細胞は寿命を迎えると自然に排除されます。しかし、一部の細胞は死ぬことなく体内に残り続けます。これが「老化細胞」です。老化細胞は増殖能力を失っているにもかかわらず、炎症性サイトカインなどを分泌し続け、周囲の細胞にも悪影響を与えることが知られています。

このため、
・加齢
・動脈硬化
・糖尿病
・神経変性疾患
などとの関連が世界中で研究されています。そこで近年注目されているのが、老化細胞だけを除去するセノリティクスという考え方です。

3.SENOX25™の作用メカニズム
SENOX25™が注目されている理由は、GLS-1(グルタミナーゼ1)という酵素に着目している点です。GLS-1は、細胞がエネルギーを作り出す代謝に関わる酵素ですが、老化細胞ではGLS-1の働きを利用して生き延びていることが報告されています。SENOX25™は、このGLS-1の働きを阻害することで、老化細胞が生存するための仕組みを弱めることが期待されています。つまり、「老化細胞だけを自然に減らすことを目指す食品素材」というコンセプトで研究が進められているのです。

4.プレスリリースで公開されている実験データ
日本医療製薬株式会社のプレスリリースでは、細胞実験の概要も公開されています。実験では、
・ヒト皮膚がん細胞(メラノーマ B16mel) RT-PCR法 GLS-1 mRNA発現量
・RT-PCR法
・GLS-1 mRNA発現量
を評価しています。SENOX25™を0.06〜60 μg/mLの濃度で細胞へ添加したところ、濃度が高くなるほどGLS-1遺伝子の発現量が低下する傾向が示されています。この結果は、SENOX25™がGLS-1の発現に影響を与える可能性を示すものとして興味深いものです。※一方で、公開資料では統計解析やエラーバーなどの詳細データは示されておらず、また細胞実験(in vitro)の結果であることにも注意が必要です。現時点では、ヒトで同様の効果が確認されたことを示すものではありません。

5.健康寿命延伸への期待
日本では平均寿命と健康寿命には約10年程度の差があるとされています。つまり、多くの人が人生の最後の約10年間を何らかの健康上の問題を抱えながら生活している可能性があります。老化細胞除去技術は、この期間を短縮できる可能性があるとして世界中で研究が進められている分野です。SENOX25™は医薬品ではなく食品素材として開発が進められているため、今後はサプリメントや機能性表示食品などへの応用も期待されています。

6.特許出願の状況
SENOX25™に関する技術については、2024年12月に特許出願され、その後出願公開されています。

出典2:特開2026-111962,「ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド産生活性化剤、Sirt-1活性化剤、ミトコンドリア活性化剤、GLS-1活性阻害剤、医薬品、化粧品および食品又は飲料」
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2026-111962/11/ja
※本出願では、タモギタケ由来成分について、
・NAD産生活性化
・Sirt-1活性化
・ミトコンドリア活性化
・GLS-1阻害
など複数の用途が記載されており、抗老化用途を幅広くカバーしようとする知財戦略がうかがえます。なお、本出願は現在審査中であり、今後どのような権利範囲で特許が成立するかは審査結果を待つ必要があります。

7.現時点でのエビデンス
現時点で公開されている情報を整理すると、以下のようになります。

項目状況
特許出願公開済み
プレスリリース公開済み
細胞実験公開あり
動物試験公開情報なし
ヒト臨床試験公開情報なし
査読付き論文現時点では確認できず

今後、査読付き論文や臨床試験の結果が公表されれば、本素材の科学的エビデンスはさらに強固なものになるでしょう。

8.まとめ
SENOX25™は、食用キノコであるタモギタケ由来の天然素材であり、老化細胞研究の分野で注目されているGLS-1を標的とした新しい食品素材です。現時点では主に細胞実験レベルのデータが公開されている段階ですが、日本企業による研究開発と特許出願が進められており、今後の研究成果や製品化の動向が期待されます。

Food Patent Labでも、今後公開される論文や特許審査の状況、新たな関連出願などを引き続きウォッチしていきたいと思います!

出典3:日本医療製薬株式会社のプレスリリース
https://newscast.jp/news/6183965

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この記事を書いた人

Yoshiharu Takahashiと申します。
都内特許事務所に所属する、元食品メーカー研究員の弁理士。化学・バイオ分野を中心に、特許出願、FTO調査、無効資料調査など、(2026年現在)13年以上にわたり知的財産業務に従事しています。
Food Patent Labでは、「食品×知財×経済」をテーマに、食品関連特許や技術動向、知財戦略について発信しています。記事に関するご質問や特許に関するご相談は、お問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。

About the Author
Yoshiharu Takahashi is a Japanese Patent Attorney with over 13 years of experience in intellectual property. On Food Patent Lab, he writes about food-related patents, innovation, and the business impact of intellectual property.

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