マンジャロの代わりになる食べ物はある? 特許情報から見えた「GLP-1分泌を促す可能性のある天然素材」探しの旅

近年、ダイエットや糖尿病治療の分野で大きな注目を集めているのが「マンジャロ」です。

SNSでは、
・「食欲が自然に減った」
・「無理な我慢をしなくても痩せられた」
といった体験談を目にする機会が増えました。

一方で、
・「薬に頼って痩せるのは少し不安」
・「副作用が気になる」
という声もあります。

そこでふと疑問が湧きました。
もちろんマンジャロと同じ効果は期待できませんが、食事によって体内でGLP-1の分泌を促すことはできるのでしょうか?今回は、マンジャロの仕組みを簡単に解説しながら、特許情報から見えてきた「GLP-1分泌を促す可能性のある天然素材」とも呼べる研究をご紹介したいと思います。

なお、今回の記事で注意したいのは、食品によるGLP-1分泌促進効果と、マンジャロのような医薬品の効果は同じではないことです。また、本記事の後半で紹介している特許は「GLP-1分泌を促す可能性のある天然素材」を示すものであり、マンジャロと同等の体重減少効果を示すものではありません。

1.マンジャロはなぜ痩せるのか?
マンジャロの有効成分は「チルゼパチド」です。マンジャロはGLP-1受容体とGIP受容体に作用する薬として知られています。ここで重要なのが「GLP-1」というホルモンです。GLP-1は、私たちが食事をしたときに小腸から分泌されます。ここで、体内で分泌されたGLP-1などのホルモンは分泌されても数分でDPP-4という酵素に分解されて消えてしまいます。マンジャロの特徴は、分解されないように設計されている点にあります。

その働きとして、
・食欲を抑える
・満腹感を高める
・胃の内容物が腸へ移動する速度を遅くする
・血糖値の上昇を抑える
などが知られています。

簡単に言えば、
食事をする→小腸からGLP-1が分泌される→GLP-1が膵臓や脳などのGLP-1受容体に作用する→満腹感が高まり食欲が落ち着く→食べ過ぎを防ぐ
という流れです。
マンジャロは、GLP-1受容体とGIP受容体の両方に作用し、食欲抑制や胃排出遅延などを介して体重減少をサポートします。

出典1:「GIP and GLP-1 co-agonist compounds」, US9474780B2
https://patents.google.com/patent/US9474780B2/en?oq=US9474780
※体内ですぐに分解されてしまうホルモン(GIP)や、既存のGLP-1作動薬の課題を解決するために、分解されにくく長時間作用し、GIPとGLP-1の両方の作用を併せ持つ(チルゼパチドを含む)ペプチド医薬を開発した特許発明です。

一方で、医薬品である以上、副作用についても理解しておく必要があります。吐き気、下痢、便秘、胃もたれなどの消化器症状が代表例です。※厚生労働省は2023年に公表した安全性情報の中で、GLP-1受容体作動薬について、一部で美容・痩身目的に使用されている実態があることを指摘しています。また、こうした適応外使用については有効性・安全性が確認されておらず、副作用による健康被害のおそれがあるとして注意喚起を行っています。

一方、研究者たちは以前から「食品によって体内のGLP-1分泌を促進できないか」という研究を進めてきました。以下に紹介する食品素材は、体内のホルモン分泌をより促進させるアプローチであり、マンジャロとはそのメカニズムが異なります。

2.実は食品業界もGLP-1を研究していた
GLP-1が一般に知られるようになったのは、マンジャロやGLP-1受容体作動薬が話題になってからです。しかし特許を調べてみると、食品業界はもっと前からGLP-1に注目していました。興味深いのは、企業ごとに着目した素材が異なることです。

・牛乳由来のタンパク質に注目した特許
特許第4180645号では、「κ(カッパ)-カゼイン」という牛乳由来のタンパク質がGLP-1分泌促進素材として提案されています。GLP-1というと水溶性の食物繊維を連想する人が多いかもしれません。しかし、この特許を見ると、GLP-1分泌を促す候補として、タンパク質にも着目されていたことが分かります。

出典2:「グルカゴン様ペプチド-1分泌促進剤及び食後血糖値上昇抑制剤」,特許第4180645号
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2007-537724/10/ja

・大麦若葉に注目した特許
特許第5910901号では、大麦若葉を有効成分とするGLP-1分泌促進剤が提案されています。大麦若葉と聞くと、青汁を思い浮かべる方も多いでしょう。大麦は食物繊維を豊富に含むことで知られています。

大麦若葉そのものがどの成分によって作用するかは明確ではありませんが、食物繊維との関連も含め、さまざまな作用機序が検討されています。

出典3:「GLP-1分泌促進剤」,特許第5910901号
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2015-067233/10/ja

・植物由来成分に注目した特許
特許第6045845号では、
・フェルラ酸
・植物ステロール
・ユッカ抽出物
・高麗人参
・ビワ茶
など、多様な植物由来成分が提案されています。ここまで見ると、食品業界が実にさまざまな方向からGLP-1を研究していることが分かります。

出典4:「GLP-1分泌促進剤」,特許第6045845号
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2012-174819/10/ja

3.特許から見えてくる意外な事実
特許を見る限り、複数の素材が並行して研究されており、現時点では食品業界全体で「これが決定版」といえる素材は、まだ見つかっていないようです。

実際には、
・タンパク質
・食物繊維
・ポリフェノール
・植物抽出物
など、さまざまな候補が研究されています。つまり現在もなお、「GLP-1分泌を促す可能性のある天然素材」の探索が続いているのです。

4.コラム:私たちは何のために食べるのか
ここで少し話を変えてみましょう。古代ギリシャの哲学者ソクラテスには、
「生きるために食べよ、食べるために生きるな」
という言葉が伝えられています。

この言葉を現代のGLP-1ブームに当てはめると、興味深い問いが浮かびます。痩せるために薬を使うことについては様々な考え方があります。医学的な必要性に基づく治療もあれば、美容目的で利用するケースもあります。

では、GLP-1分泌促進との関連が研究されている食品素材を選ぶことはどうでしょうか。それもまた、健康を意識した行動の一つと言えるかもしれません。私は、その違いは「目的」にあると思います。例えば、体型そのものが人生の目的になってしまうと、人は数字に支配されます。

しかし、
・健康に働きたい
・旅行を楽しみたい
・家族との時間を大切にしたい
・元気に歳を重ねたい
という目的のために食生活を整えるのであれば、それは「生きるために食べる」行動に近いのではないでしょうか。

5.企業は何のためにGLP-1を研究するのか
実は、この問いは食品会社にも当てはまります。GLP-1研究は消費者の健康を守るためなのでしょうか。それとも、痩せたいという欲望を刺激するためなのでしょうか。

おそらく答えは単純ではありません。研究者は健康寿命の延伸や生活習慣病の予防を目指しているかもしれません。一方で企業は利益を出さなければ存続できません。健康とビジネスは常に隣り合わせに存在しています。

興味深いのは、特許そのものには欲望が書かれていないことです。特許明細書には、
・「GLP-1分泌促進」
・「食後血糖値上昇抑制」
・「満腹感付与」
といった技術的な内容が淡々と記載されています。

そこに、「夏までにマイナス10kg」や「理想の体型へ!」といった言葉はありません。
特許は、企業が何を研究し、何に可能性を見いだしているのかを示す技術の記録なのです。

私たちは何のために食べるのか。企業は何のために食品を開発するのか。
そんな古くて新しい問いもまた、特許情報に隠れているように思えるのです。

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この記事を書いた人

Yoshiharu Takahashiと申します。
都内特許事務所に所属する、元食品メーカー研究員の弁理士。化学・バイオ分野を中心に、特許出願、FTO調査、無効資料調査など、(2026年現在)13年以上にわたり知的財産業務に従事しています。
Food Patent Labでは、「食品×知財×経済」をテーマに、食品関連特許や技術動向、知財戦略について発信しています。記事に関するご質問や特許に関するご相談は、お問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。

About the Author
Yoshiharu Takahashi is a Japanese Patent Attorney with over 13 years of experience in intellectual property. On Food Patent Lab, he writes about food-related patents, innovation, and the business impact of intellectual property.

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