「空気からタンパク質を作る」は本当か?Solar FoodsのSoleinと米国特許を調べてみた

1.面白い記事を見つけた!
「空気を食べて生きる」ーー昔なら植物か仙人くらいにしか許されなかった発想ですが、どうやら人類も少しずつその領域に近づいているようです。最近、海外食品メディアで興味深い記事を見つけました。

フィンランドのフードテック企業 Solar Foods が、同社の開発するタンパク質素材 Solein(Solar Foods社の登録商標) に関して米国特許を取得した、というニュースです。

記事中で特に目を引いたのが、Soleinについての次の表現でした。

“Protein made from air(空気から作られるタンパク質)”

なんとも未来を感じさせる表現です。

「空気からタンパク質」と聞くと、まるでSF作品に出てきそうな技術にも思えます。

一方で、少しだけ気になりました。

タンパク質はアミノ酸からできており、炭素だけでなく窒素なども必要です。また、Solar Foodsの製造プロセスでは、水を電気分解して水素を作る工程もあるようです。

では、「空気から作る」とは具体的にどういう意味なのだろう?

せっかくなので、関連する基礎特許まで調べてみることにしました。

2.そもそもSoleinとは何か?
Soleinは、Solar Foodsが開発する微生物由来タンパク質です。

Solar Foods社HP(↓Soleinの画像が確認できます。)
https://www.solein.com/

見た目は黄色みがかった粉末で、小麦粉やプロテインパウダーのようにも見えます。

特徴としては、

  • 高タンパク
  • 必須アミノ酸を含む
  • 乳製品、植物肉、飲料、スナックなど幅広い用途に利用可能

とされています。

従来のタンパク質源としては、

  • 牛肉
  • 大豆
  • 乳製品

などがありますが、これらは基本的に農業や畜産に依存します。

一方、Soleinは農地をほとんど使わずに製造できる点が大きな特徴です。

食料生産を、より工業的・安定的に行おうとする試みと言えるかもしれません。

3.基礎技術となる特許を見つけた
関連特許を調べたところ、Solar Foodsの基礎技術に近いと思われる米国特許として、以下を見つけました。(Soleinそのものの特許というより、Solein製造の基盤技術に関する特許です。)

US12600940B2
Strains and processes for single cell protein or biomass production

タイトルを見ると、

  • Strains(菌株)
  • Processes(製造方法)

の両方を対象としていることが分かります。

つまり、

「どんな微生物を使うか」と「どうやって作るか」

の両面を押さえた特許です。

ディープテック系スタートアップらしい、かなり王道の知財戦略に見えます。

4.特許を読むと、「空気から」の意味が見えてくる
では、この特許では具体的に何をしているのでしょうか。

特許明細書によると、Solar Foodsは特殊な微生物を利用しています。

この特殊な微生物は、いわゆる「水素酸化自己栄養細菌」(水素細菌)に分類される微生物で、

  • 水素(H2)をエネルギー源
  • CO2(二酸化炭素)を炭素源

として増殖できます。

ここで「空気から」という表現の意味が少し分かってきます。

空気中には微量ながらCO2が含まれています。Solar Foodsは、このCO2を炭素源として利用します。

私たちが普段食べている食品も、もとをたどると植物の光合成によってCO2から作られた有機物に由来しています。例えば、野菜や穀物はもちろん、それらを飼料として育った家畜由来の食品も、間接的には空気中のCO2を出発点としているといえます。

一方、Solar Foodsは植物ではなく微生物を利用してCO2を取り込み、タンパク質を含むバイオマスを生成します。つまり、牛や大豆を介さず、かなりショートカットでタンパク質にたどり着こうという発想です。ずいぶんとせっかちな文明になったものです。

概略のイメージとしては以下のような違いです。

従来:
空気中CO2 → 植物(光合成)/ 農作物 → 人が食べる
空気中CO2 → 植物(光合成)→ 飼料 → 家畜 → 人が食べる

Solar Foods:
空気中CO2 → 微生物培養 → タンパク質 → 人が食べる

このように見ると、「空気からタンパク質」という表現もイメージしやすくなります。

5.実際の製造プロセス
製造工程は、おおまかには以下のようです。

Step1:水を電気分解して水素を作る
まず水を電気分解して水素を得ます。

この電力には再生可能エネルギーの利用が想定されています。

Step2:微生物を培養する
次に、微生物に対して

  • CO2
  • 水素
  • 酸素
  • 窒素源(アンモニアなど)
  • ミネラル

を供給します。

すると微生物が増殖します。

この微生物は、植物のようにCO2を材料として細胞成分を作れるため、効率的にバイオマスを生成できます。
なお、この微生物は空気中の窒素(N2)を固定する能力も有するようですが、特許実施例では成長速度や生産性の観点から、主にアンモニア等の固定窒素源を利用しているように見えます。

Step3:乾燥・粉末化
培養後、微生物を回収して乾燥させることで粉末状タンパク質になります。

これがSoleinです。

かなりシンプルですが、裏側には微生物制御や培養条件最適化など多くの技術が詰まっていそうです。

6.この技術の何がすごいのか?
個人的に、この技術の面白さは「未来感」だけではないと思いました。

① 農業への依存を減らせる
Soleinは工場内で製造可能です。

そのため、

  • 天候
  • 干ばつ
  • 農地不足

などの影響を受けにくい。

食料生産の安定性向上につながります。

②環境負荷低減の可能性
畜産は、

  • 土地
  • 温室効果ガス

の負荷が大きいことで知られています。

一方、この技術はCO2を原料として利用します。

環境負荷全体の評価には電力由来なども含めたLCA評価が必要ですが、少なくとも発想として非常に面白いです。

③食料生産の場所が変わる
農地が不要なら、

  • 砂漠
  • 寒冷地
  • 都市近郊
  • 宇宙空間

でもタンパク質生産が可能になります。

Solar Foods自身も宇宙用途に言及しており、かなり夢があります。

宇宙開発とフードテックがつながるのは、なかなかロマンがありますね。

7.特許から見るSolar Foodsの強さ
今回のUS12600940B2では、

  • 特殊菌株
  • その変異体
  • 製造方法

までカバーされています。

つまり、

単に「空気由来タンパク質」というアイデアだけでなく、実装技術そのものを押さえている

点が重要です。

こうした分野では、コンセプトよりも再現性のある実装が価値になります。

その意味で、

  • 菌株
  • 培養条件
  • 生産方法

を特許で押さえるのは非常に合理的です。

Solar Foodsはかなり堅実に知財ポートフォリオを構築している印象を受けました。

8.まとめ
「空気からタンパク質を作る」という表現に惹かれて調べてみましたが、特許まで読むとその意味がかなりよく分かりました。

Solar Foodsは、

  • 空気中のCO2
  • 水由来の水素
  • 微生物培養

を組み合わせることで、農業を介さずタンパク質を生産しようとしています。

個人的には、この技術の本質は「空気そのもの」よりも、

食料生産を農業から部分的に切り離せる可能性

にあるように感じました。

人口増加、気候変動、資源制約が進む中で、このような技術は今後ますます重要になるかもしれません。

数年後、スーパーで「空気由来プロテイン入り」と書かれた食品を見かけても、あまり驚かない時代が来るのかもしれませんね。

参考資料・出典
Solar Foods wins US patent for air protein Solein, FoodNavigator-USA
https://www.foodnavigator-usa.com/Article/2026/04/16/solar-foods-wins-us-patent-for-air-protein-solein/?utm_source=chatgpt.com

Solar Foods Oy, US Patent No. US12600940B2
https://patents.google.com/patent/US12600940B2/en?utm_source=chatgpt.com

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この記事を書いた人

Yoshiharu Takahashi(高橋)と申します。都内特許事務所にて弁理士として12年以上活動し、特許出願、FTO調査、無効資料調査など、これまでに累計2,000件以上の案件を担当してきました。主に化学・バイオ分野を中心に、国内外の知財戦略を幅広くサポートしています。

弁理士業務のかたわら、「食品×知財×経済」の交差点から現場の知見を発信しています。記事に関するご質問や、国内外特許に関するご相談は、お問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。特許のご相談については、フォーム送信後、所属事務所より折り返しご連絡いたします。

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