味を予測するAI?GNNのすごい力を紹介

最近、鳥取大学医学部の岩田教授が、AIを使って薬や食品の「味」を予測する技術を開発したというニュースがありました。特に「甘い」「苦い」といった味の違いを、化学物質の構造から判断できるのだそうです。この技術のカギとなっているのが、グラフニューラルネットワーク(GNN)という最新のAIです。

この記事では、このニュースを紹介しながら、GNNとは何か、なぜ味覚予測に役立つのかを説明していきます。

1.ニュースの概要
岩田教授らのチームは、公開されている化合物のデータを使ってAIを学習させました。その結果、薬の成分や食品に含まれる化学物質が「甘いのか」「苦いのか」を予測できるようになったのです。

さらにすごいのは、AIが「どの分子の部分に注目して予測したのか」まで示せること。つまり「苦味の原因はこの部分だ」といった“根拠”を提示できるのです。これによって、薬の飲みやすさを改善したり、新しい食品を設計したりすることに応用できると期待されています。

出典:山陰中央新報 ONLINE NEWS
https://news.jp/i/1334503158216492001?c=768367547562557440

2.GNNとは?イメージで理解しよう
では、このGNNって一体どんな仕組みなのでしょうか?

GNNは「Graph Neural Network」の略で、日本語ではグラフニューラルネットワークといいます。ポイントは「グラフ」という考え方です。
ノード(点) … 分子の世界なら「原子」にあたる部分
エッジ(線) … 原子同士をつなぐ「化学結合」

分子を「点と線のつながり」で表したものがグラフ構造です。

GNNは、この「つながりの形」を手がかりにして情報を学習します。たとえばある原子が周りのどんな原子と結びついているかをAIが調べていき、それを何度も繰り返すことで「分子全体の特徴」をつかんでいきます。

3.なぜGNNがすごいのか?
従来のAI(画像認識に強いCNNや、文章処理が得意なRNN)は、データが画像のような格子状文章のような並びであることを前提にしています。でも分子や人間関係、道路ネットワークのようなデータはもっと複雑で、きれいに並んでいません。

そこでGNNは、こうした「複雑なつながり」をそのまま扱えるのが強みです。言い換えれば、関係性そのものを理解できるAIなのです。だからこそ、分子構造から味を予測することが可能になったわけです。

4.GNNの使い道はいろいろ
今回の「味覚予測」以外にも、GNNはさまざまな分野で使われています。
創薬:薬候補の分子が体内でどう働くかを予測
SNS:友達推薦やコミュニティ分析
交通:道路や鉄道の混雑を予測
推薦システム:ネットショッピングや動画配信で「あなたへのおすすめ」を出す
つまり、つながりや関係性が重要なデータに強いのです。

5.GNNの仕組みをもう少しだけ
GNNの基本は「メッセージパッシング」という考え方です。イメージしやすいように例え話をしてみましょう。
・ある原子(ノード)が「私は酸素だよ」と自己紹介する
・周りの原子が「私は水素だよ」と情報を渡す
・それを受け取って「じゃあ私は水分子の一部だな」と特徴を更新する
この「情報のやり取り(メッセージ)」を繰り返すことで、AIは分子全体の特徴を学習していきます。

まるで「友達からの情報を聞いて自分を理解する」ような感じです。

6.メリットと課題
【メリット】
・複雑なつながりをそのまま扱える
・特徴を自動で学習してくれる
・薬や食品など応用範囲が広い
【課題】
・大規模なデータでは計算コストが高い
・まだ発展途上で、精度や信頼性に改善の余地がある
・「なぜその答えにたどり着いたのか」が分かりにくい場合もある

ただし今回の研究では、AIが注目した部分を可視化する工夫がされており、課題の一つである「解釈の難しさ」を解決に近づけています。

7.味覚予測に応用する意味
薬を飲むときに「苦くて飲みにくい」と感じた経験は誰にでもありますよね。GNNを使えば、苦味の原因となる分子部分を事前に把握できるので、「苦味を抑えた薬」を設計できる可能性があります。これは患者さんにとって大きなメリットです。

また食品分野でも、「砂糖を使わずに甘味を出す」ような新しい食材開発につながるかもしれません。健康志向の社会においては非常に価値のある研究です。

8.まとめ
グラフニューラルネットワーク(GNN)は、点と線で表される「つながりのデータ」を学習できるAIです。分子構造から味を予測できる今回のニュースは、その可能性を示す一例にすぎません。

将来的には、薬や食品の開発にとどまらず、交通やSNS、材料開発などさまざまな分野でGNNが活躍していくでしょう。私たちの身近な生活にも、知らないうちにGNNの力が取り入れられる日が来るかもしれません。

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この記事を書いた人

Yoshiharu Takahashi(高橋)と申します。都内特許事務所で弁理士として12年以上、特許出願・FTO調査・無効資料調査など、累計2,000件以上の案件を担当。化学・バイオ分野を中心に、国内外の知財戦略をサポートしています。

食品・知財・経済の交差点から現場の知見を発信中。記事へのご質問や国内特許・海外特許のご相談は、お問合せフォームよりお気軽にどうぞ。

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