Planetaryが狙ったLibre Foodsの「菌糸体ベーコン」とは?代替肉の新潮流を探る

近年、代替肉の開発が世界中で加速しています。「環境にやさしい」「動物福祉の観点から注目されている」「タンパク質の新しい供給源」といった理由から、ビヨンド・ミートやインポッシブル・フーズといった企業の登場以降、この分野は急速に成長してきました。

そうした中で今、欧州で注目を集めているのが、スペイン発のスタートアップLibre Foods(リブレ・フーズ)が開発する「菌糸体(きんしたい)」を活用した発酵肉(fermentation-based meat)です。

そして2025年、この技術に目をつけたのが、スイスの発酵企業Planetary。Libre Foodsを買収したことで、“キノコの根っこ”を使った次世代タンパク源の市場展開が本格化する兆しを見せています。

1.代替肉には3つのタイプがある
まずは、代替肉の大まかな分類を確認しておきましょう。

分類主な原料代表例特徴
植物性代替肉大豆、エンドウ豆などビヨンド・ミート、ネクストミーツ植物からタンパク質を抽出して加工
発酵肉菌糸体、微生物(酵母など)Libre Foods、Nature’s Fynd微生物を育ててタンパク質化
培養肉動物細胞Upside Foods、Eat Justなど動物の細胞を体外で培養して育成

Libre Foodsが取り組んでいるのは、このうちの「発酵肉」にあたります。とくに注目すべきは、菌糸体(キノコの根のような構造)を使って、まるでベーコンのような風味や食感を再現している点です。

2.特許からわかるLibre Foodsの技術とは?
Libre Foodsは2023年に欧州で「EP4530341A1」という特許を出願しました。この特許を読み解くと、以下のような技術が明らかになります。

出典1:Google Patents EP4530341
https://patents.google.com/patent/EP4530341A1/en?oq=EP4530341

技術の概要:
・特定のキノコ(例:ショウゲンジ、ハタケシメジなど)の菌株を選定
・それらを液体培地で菌糸体(mycelium)として発酵培養
・発酵で育った菌糸体を収穫し、繊維状に成形・加工
・さらに、植物性脂肪やスモーク調味料などを加え、「ベーコン風」の代替肉に仕上げる

つまり、「菌糸を育て、加工して、お肉のように仕上げる」というのがこの特許のコア技術です。食感も味も本物のベーコンに近づけており、植物性原料では再現が難しかった“肉っぽさ”を実現しています。

出典2:ホクト公式HP ショウゲンジ
https://www.hokto-kinoko.co.jp/kinokolabo/album/37874/

出典3:ホクト公式HP ハタケシメジ
https://www.hokto-kinoko.co.jp/kinokolabo/album/15574/

3.Planetaryの狙い:なぜLibre Foodsを買収したのか?
スイスのPlanetaryは、もともと「精密発酵」と呼ばれる分野で、微生物の大量培養に特化した設備やプロセス技術を開発する企業です。

Libre Foodsの特許に記載されている菌糸体の生産には、無菌環境・温度管理・酸素供給など、発酵タンクの高度な制御が求められます。これはまさに、Planetaryが得意とする領域です。

この買収によって、以下のようなシナジーが生まれると考えられます:
・Libre Foods → 製品開発力(ベーコンの設計・風味付けなど)
・Planetary → 生産スケールアップ(大量培養の技術)

結果として、「菌糸体発酵による代替ベーコン」が商業生産・グローバル展開へと一歩近づいたことになります。

4.日本市場との関係は?
2025年7月現在、日本では「発酵肉」や「菌糸体由来の代替肉」はまだ市場にほとんど出ていません。国内の代替肉は、主に大豆や小麦を原料とした植物性ミートが中心です。

とはいえ、日本にはキノコ文化がありますし、キノコを発酵・培養する技術基盤も整っています。今後、健康志向やサステナビリティへの関心が高まるなかで、「発酵プロテイン」や「菌糸体ミート」への関心も高まっていくと考えられます。

5.まとめ
・Libre Foodsの特許(EP4530341A1)は、菌糸体を活用した代替ベーコンの製法を詳しくカバーしており、今後の市場展開の鍵となる。
・スイスのPlanetaryが買収したことで、生産体制とスケーラビリティが確保されつつある。
・「発酵肉」というジャンルは、従来の大豆ミートとは異なる新しいアプローチで、次世代タンパク質市場における注目株。
・日本市場でも、将来的にこの分野が成長する余地は十分にある。

出典4:Foovo 「スイスのPlanetary、菌糸体スタートアップLibre Foodsの中核資産を買収──マイコプロテイン市場での存在感を強化」
https://foodtech-japan.com/2025/07/09/planetary-3/

※本記事では、Libre Foodsの出願中の特許公報(EP4530341A1)について言及・引用しております。これは出典元の記事において当該特許が紹介されており、また公知の情報であることから、研究開発や事業活動への影響がないと判断し、掲載しております。万が一問題がある場合はご連絡ください。

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この記事を書いた人

はじめまして。takahashi(高橋)と申します。
弁理士として12年以上、知的財産の実務に携わってきました。これまでに、特許出願・中間対応・FTO調査・無効資料調査など、累計2,000件以上の案件を担当しています。

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