話題の「NMN」って本当に若返る?最新研究と日米欧の規制状況をわかりやすく解説【NMN前編】

こんにちは。
近年、「NMN(ニコチンアミド・モノヌクレオチド)」という成分が、アンチエイジングの切り札として世界的に注目されています。日本でも健康食品として販売されているNMNですが、本当に効果があるのでしょうか?
今回は、2021年のレビュー論文(ScienceDirect掲載)をもとに、NMNの実力や注意点についてわかりやすく解説します。

出典1:ScienceDirect(2021)
“Nicotinamide mononucleotide (NMN) as an anti-aging health product – Promises and safety concerns”
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2090123221001491

1.NMNとは何か? ― 体内でNAD⁺に変わる「若返り成分」
NMNは、体内で「NAD⁺(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)」という補酵素に変換されます。
このNAD⁺は、エネルギーの生産やDNA修復、老化の制御に関わる重要な分子ですが、加齢とともに体内量が大幅に減少します。

つまり、NMNを摂取することで、年齢とともに失われるNAD⁺を補い、「細胞レベルの若返り」が期待されているのです。

2.研究で示されたNMNの主な効果(※主に動物実験)
論文によると、NMNには以下のような作用が確認されています:
エネルギー代謝の改善
 → 加齢により低下するミトコンドリア機能をサポートし、疲労感の軽減に寄与。
脳機能や神経の保護
 → アルツハイマー病モデルのマウスで認知機能の改善が確認された例も。
心臓・血管の保護
 → NAD⁺が心筋細胞を守り、心機能を維持する可能性あり。
糖代謝・インスリン感受性の改善
 → 高齢マウスで血糖値のコントロールが向上。
どれも魅力的な効果ですが、注意すべき点は、ほとんどが動物実験での結果であるということ。人間への効果は、まだ始まったばかりの段階です。

3.人への安全性は?副作用はあるの?
ヒト臨床試験も少しずつ始まっていますが、現時点での結論は以下の通りです:
短期的には安全性が高い
 → 最大500mg/日程度のNMN摂取で、副作用の報告はほとんどありません。
長期的な安全性は未確認
 → 長期間にわたる摂取が、肝臓や腎臓などの臓器に影響を及ぼす可能性も否定できず、さらなる研究が必要です。

観点現状の知見(2021年論文より)
NAD⁺への変換確認されており、代謝活性向上に寄与
アンチエイジング効果動物実験では有望、人での証拠は限定的
副作用短期的には少ないが、長期使用の安全性は不明
入手・規制日欧では健康食品扱い、米国では医薬品に分類へ

4.規制は国によって大きく異なる
ここで重要なのが、NMNに対する各国の法的な取扱いの違いです。サプリメントとして気軽に手に入る国もあれば、販売が制限されている地域も存在します

アメリカでは、2022年、FDA(米国食品医薬品局)は「NMNはすでに医薬品として治験申請がなされているため、サプリとしての流通は不可」と判断しました。これにより、Amazonなどの主要販路からNMN製品が削除され、現在も法的な議論が続いています。禁止が確定したわけではなく、法的な争いにより判断保留となり、グレーゾーンの状態です。

出典2:Renue By Science(2023)
“Why NMN Supplements Were Banned by the FDA”
https://renuebyscience.com/blogs/news/nmn-ban-details?utm_source=chatgpt.com

・欧州では、NMNは1997年以降に食経験のない「ノベルフード(新規食品)」に該当するとされ、EFSA(欧州食品安全機関)の承認を受けない限り販売できません。現在、複数の企業が申請・審査中で、現時点では正式に承認された製品はありません。

出典3:European Commission(2022)
“Consultation on the status of Nicotinamide mononucleotide (NMN) as a novel food”
https://food.ec.europa.eu/system/files/2022-10/novel-food_consult-status_nmn-cz.pdf?utm_source=chatgpt.com

・一方で、日本では明確な規制が存在しておらず、NMNは一般的な健康食品として販売可能な状況です。ただし、「若返り」「アンチエイジング」など医薬的な効能表現はNGであり、表示上のガイドライン(景品表示法・医薬品医療機器等法)に注意が必要です。

参考特許:特許情報プラットフォーム 特許7210459
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7210459/15/ja

特許解説:日本の高齢化社会では、老化に伴う細胞機能低下や活性酸素による損傷が課題となっています。従来の抗酸化物質では体内での利用効率が低い場合があり、より効果的な手法が求められていました。
本特許は、補酵素NADの前駆体であるNMNを摂取し体内でNAD+を増加させることで、サーチュイン酵素を活性化し細胞修復や代謝機能を改善するとともに、活性酸素の影響を軽減し皮膚や免疫などの老化現象を抑制する方法を提供しています。
*NMNやNAD+の研究は現在も進行中であり、ヒトでの長期的な効果についてはまだ十分に解明されていないことにご留意ください。

NMNの規制比較表(日本・アメリカ・欧州)

項目日本アメリカ欧州(EU/EFTA)
分類(制度上の取扱い)健康食品(サプリメント)医薬品(サプリ不可)ノベルフード(新規食品)
販売状況自由に販売可一部で販売停止、Amazonなどで削除承認制。無許可販売は不可
規制当局消費者庁・厚労省FDA(米食品医薬品局)EFSA・EC(欧州委員会)
規制の背景明確な規制なし(効能表現制限)医薬品申請されたため健康食品扱い不能に食経験なしのためノベルフード審査が必要
入手性◎ 比較的容易△ 入手困難化△ 承認済製品のみ入手可
臨床研究一部民間で進行中大学・病院で複数実施一部予備的研究段階

表で比較すると「日本だけが合法なのでは?」と心配になりますが、日本以外にもカナダやインドでは合法に購入できます。オーストラリアでは国内販売は制限されていますが、輸出や個人輸入という形で入手が可能です。

5.まとめ
NMNは、アンチエイジングに対して確かに有望な成分です。
しかし、効果の多くは動物実験に基づくものであり、科学的にはまだ「発展途上」。また、国ごとの規制の違いも大きく、欧米では医薬品やノベルフードとしての扱いになっていることからも、過剰な期待や誤解には注意が必要です。

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この記事を書いた人

takahashi(高橋)と申します。弁理士として12年以上、特許出願・FTO調査・無効資料調査など、累計2,000件以上の案件を担当。化学・バイオ分野を中心に、国内外の知財戦略をサポートしています。

食品・知財・投資の交差点から現場の知見を発信中。記事へのご質問や国内特許・海外特許のご相談は、お問合せフォームよりお気軽にどうぞ。

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