前編では、2025年のイグノーベル賞から食べ物関連の研究を紹介しました。
今回は少し過去にさかのぼり、日本人研究者によるユニークな受賞研究に注目します。
それはなんと 「電気で塩味を増幅させる箸とストロー」。
聞いただけでちょっと笑ってしまいますが、その裏には減塩や健康管理というシリアスな課題があります。
しかも、この研究にはしっかりと特許出願がなされているのです。
1.特許で見る「味を変えるテクノロジー」
この研究には、実際に関連する特許が存在します。そのひとつが 特許第7704793号「味覚提示装置」 です。
出典1:特許情報プラットフォーム
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7704793/15/ja
2.発明のポイント
【技術分野】電気的な刺激を利用して味覚に変化を与える装置。対象は食事や飲み物全般。
【発明の課題】電気刺激で塩味を強く感じさせると「金属っぽい味(電気味)」や違和感が出てしまう。電流を弱めれば安全だが効果が薄れる…。
【課題を解決するための手段】
・飲食物と体の間に電極を設け、微弱な電流を流す。
・陰極刺激 → 陽極刺激へ切り替える波形制御により、違和感を抑えつつ効果を引き出す。
・ノイズ低減回路を搭載し、金属味や不快感を最小化。
・箸、フォーク、ストローなど日常的な食器を電極として利用可能。
つまり「ただビリビリさせる」のではなく、人が心地よく感じられるよう緻密に電流をコントロール しているのがポイントです。
3.適用範囲の広さ
この発明は、塩味だけでなく 甘味、酸味、苦味、旨味、渋味 など幅広い味覚に応用可能。さらには炭酸感やアルコール感まで改変できるとされています。
特許明細書には、ラーメンやスープ、ビールやワインまで例示されていて、もし実用化されれば「減塩ラーメンも満足の味に」「ノンアルコールビールでも本物感アップ」なんて未来もあるかもしれません。
4.科学と笑いの交差点
イグノーベル賞らしく、この研究は「一見おかしな発想」ですが、背景には深刻な社会課題(高血圧や塩分過剰摂取の健康リスク)が横たわっています。笑いの奥に、真剣な挑戦があるわけです。
出典2:Improbable Research “The 2023 Ig Nobel Prize Winners”
https://improbable.com/ig/winners/#ig2023
5.まとめ
イグノーベル賞は「くだらない研究を集めた賞」と思われがちですが、実際はそうではありません。
そこには必ず「笑い」と「真剣さ」の両方があり、特許や技術開発とも深く関わっています。
2023年の「電気で塩味を強める箸とストロー」は、まさにその好例。
一見おかしな研究が、やがて健康食品や調理器具の未来を変えるかもしれません。
今年の受賞作とあわせて振り返ると、イグノーベル賞は私たちの日常に寄り添い、科学の新しい可能性を教えてくれる存在だと感じます。
