熟練の「味」をAIが再現!?調味料づくりに革新をもたらす新技術

こんにちは。
今回は、オタフクソースとIHIが共同開発した、AIを活用した調味料評価・調合技術に関する特許技術をご紹介します。

家庭でも外食でも「美味しい」と感じる味には、長年の経験に裏打ちされた調合技術が隠れています。
しかし、この「経験則」に頼った味の調整は、再現性が難しく、時間や人手もかかります。
そこで今、注目されているのが「AIによる味の再現」です。

1.経験に頼らない“味の数値化”とは?
オタフクソースとIHIの共同特許(特許第7678428号)では、AIと分光分析を使って、調味料の味の特徴を「数値」としてとらえる評価装置を提案しています。

この装置は以下のような仕組みです:
(1)調味料の「分光スペクトル(光の反射パターン)」を取得
→ これによって、調味料に含まれる成分の情報をとらえます。
(2)スペクトルデータをAIモデルに入力
→ 「この味はこういう成分構成」と特徴をベクトル(数値の並び)として表現。
(3)過去に登録された調味料と似た味かどうかを比較
→ AIが、「似た味」の調味料を自動的に特定してくれます。
つまり、「この調味料の味は、どの既存の調味料と近いのか?」をAIが判断し、再現や調整がしやすくなるという技術です。

2.熟練者の技をAIが再現できるように
この技術の特徴は、「味の特徴ベクトル」という“味の指紋”のような情報をもとに、AIが学習し、似た味を探せる点です。

さらに、AIの学習方法にも工夫があります。
学習の際、できるだけ異なる味(特徴ベクトル)がはっきりと区別されるように、「分散が大きくなる」よう調整されています。
多数の調味料の特徴ベクトルが似たようなものばかりだと、差別化ができません。分散(=ばらつき)を増やすことで、調味料ごとの違いを明確にします。これにより、AIは微妙な味の違いも捉えやすくなるのです。

3.効率的な商品開発と品質管理へ
この技術を活用すれば:
・熟練者の舌に頼らず、誰でも安定した味の再現が可能に
・新商品開発時に、ターゲットとなる味に「近づける」ための調整が容易に
・味の評価をデータで記録・管理できるため、品質管理にも役立つ
といったメリットが期待されます。

実際にオタフクソースでは、この技術を用いた「AI味覚分析器」により、従来数時間かかっていた調合作業をわずか5分で完了させることに成功したと報じられています。

4.まとめ:味づくりもデジタル時代へ
調味料の世界にもAIの波が押し寄せています。
「職人の舌」だけが頼りだった味づくりの現場が、これからはAIによる定量的評価と再現によって変わろうとしています。

もちろん、完全に職人技が不要になるわけではありませんが、AIがサポートすることで、より効率的で品質の安定した商品開発が可能になるでしょう。

「味の数値化」―これもまた、知的財産と技術が食の未来を切り拓くひとつのかたちかもしれません。

出典1:特許情報プラットフォーム
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7678428/15/ja

出典2:オタフクソース公式HP ニュースリリース
https://www.otafuku.co.jp/news/assets/20230614_01.pdf

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この記事を書いた人

takahashi(高橋)と申します。弁理士として12年以上、特許出願・FTO調査・無効資料調査など、累計2,000件以上の案件を担当。化学・バイオ分野を中心に、国内外の知財戦略をサポートしています。

食品・知財・投資の交差点から現場の知見を発信中。記事へのご質問や国内特許・海外特許のご相談は、お問合せフォームよりお気軽にどうぞ。

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