【米国特許実務】自然物だから特許にならない!?~米国での食品発明の101条拒絶とその回避戦略①~

こんにちは。弁理士の高橋です。
米国に食品関連の特許を出願する際、しばしば直面するのが「特許適格性(patent eligibility)」の壁、すなわち米国特許法第101条(35 U.S.C. §101)による拒絶です。特に「天然由来成分」「植物抽出物」を含む発明では、審査官から“natural product”(自然物)として拒絶されるケースがあります。
今回は、実務上よく見られるこの問題について、なぜ拒絶されるのか、また、どう回避できるのかを具体的に解説します。

1.101条って何?─自然物は特許にならない?
米国特許法第101条は、特許の対象となる発明を定義していますが、判例により以下の「司法上の例外(judicial exceptions)」が確立されています:
・自然法則(laws of nature)
・抽象的アイデア(abstract ideas)
自然現象・自然物(natural phenomena / natural products)
つまり、「自然界にそのまま存在するもの」には特許は与えられないという考え方です。

2.食品発明が“自然物”とみなされる典型例

発明例拒絶理由
柑橘類由来のフラボノイド抽出物自然に存在する物質と実質的に相違がないと判断される。
発酵大豆から得られたアミノ酸混合物単なる物理的抽出では「加工が不十分」とされる。
乾燥させただけの果汁パウダー加工内容が実質的変化を伴わないと見なされる。

審査官は、「自然界に存在するものをそのまま使用していないか?」という観点で審査します。構造的・機能的な変化が乏しいと、101条違反と判断されやすくなります。

3.回避するための実務的テクニック5選
① クレームの前置部(Preamble)を人工物にする
クレームの前置部において、自然に存在しない人工物であることを明記するのが第一歩です。
(*ただし、単離したDNAのように、自然界に存在しない状態であっても不適格と判断された判例(Myriad事件)もあるため、注意が必要です。)

例えば、「食品組成物(food composition)」「医薬組成物(pharmaceutical composition)」「混合物(blend)」などとした上で、構成成分の中に自然には存在しない物質が含まれていれば、特許適格性が認められる可能性があります。

② 構造変化の明記
単なる抽出や濃縮ではなく、「化学構造が変化している」「新たな誘導体が生成されている」といった構造的な差異を明確に記載します。

例えば、「◯◯抽出物を加熱下で酵素処理することにより、◯◯-グリコシド誘導体が生成される」
このように記載することで、当該誘導体が自然界には存在しないことを示すことができます。

③ 新たな用途・顕著な効果の記載
自然物であっても、新しい技術的用途や顕著な効果がある場合は、特許適格性が認められる可能性があります。

例えば、「従来の◯◯成分には見られなかった脂肪酸の吸収抑制作用が認められた」
のように、新規性のある用途や効果を明細書で明確に述べることが重要です。

④ 組成物としての新規性を主張
前置部で組成物としてクレームすることに加えて、複数成分の組合せによる新規性や相乗効果を強調します。

例えば、「天然由来成分Aと糖アルコールBの組合せにより、保存性が大幅に向上した」
このように、自然物単体ではなく、組合せによる技術的効果を明確に記載し、自然物との実質的差異を示しましょう。

⑤ 製造プロセスの独自性を強調
単なる抽出ではなく、独自の製造条件や工程によって、得られる成分の特性が従来と異なることを明記します。

例えば、「pH5.0以下で90分間超音波処理することにより、◯◯成分が安定化される」
このように、従来とは異なる製造方法による差異を示すことで、101条の壁を越える手がかりとなります。
*なお、米国ではいわゆるプロダクト・バイ・プロセス(PBP)クレームは禁止されていませんが、(日本法と解釈が異なり)製造プロセスが違っていても製品が実質同じであれば拒絶となるため、PBPクレームを使って101条を回避することはできないことが多いです。

4.判例の取り扱い
Myriad事件(2013年)
 → 自然界に存在するDNA配列の単なる単離は、特許対象外と判断されました(①に関連)。
Mayo事件(2012年)
 → 自然法則に既知の工程を付加しただけでは、特許適格性を満たさないとされました(⑤に関連)。

5.MPEP §2106の観点から
USPTOの審査ガイドライン(Step 2A/2B)では、出願人が「顕著な差異」「新規な組合せ」「技術的意義のある用途」等を明示する必要があるとされています。

6.明細書作成時に気をつけたいポイント
・「抽出した」「得られた」だけの記述にせず、構造や製造工程の変化点を明記する
実験例や試験データにより裏付けをとる
数値的根拠や機能的・効果的なデータを複数提示する。

7.まとめ
食品に関する発明であっても、「天然物だから特許にならない」とは限りません。
重要なのは、「自然界に存在するものとは異なる」という本質的な違いを、明細書およびデータにより明確に示すことです。

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この記事を書いた人

はじめまして。takahashi(高橋)と申します。
弁理士として12年以上、知的財産の実務に携わってきました。これまでに、特許出願・中間対応・FTO調査・無効資料調査など、累計2,000件以上の案件を担当しています。

中でも、化学・バイオ分野の特許を中心に、多くのご依頼をいただいております。
これまで、国内の食品素材メーカーおよび都内中堅の特許事務所に勤務し、現在は弁理士法人の代表として、国内外のお客様の知財戦略を日々サポートしています。

趣味は散歩と弓道。心身のバランスを整える大切な時間です。

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