こんにちは。弁理士の高橋です。食品業界では、新商品や素材の展示会での発表・試食提供などが一般的ですが、これが特許取得の障害になることがあるのをご存知でしょうか?
特に米国では、出願前の「商業的使用」や「販売行為」が新規性を喪失させる可能性があり、日本の感覚で行動すると大きな落とし穴にハマることがあります。
今回は、日本とは異なる米国の制度に注目し、「出願前の使用・開示が特許取得に与える影響」について、重要な判例とともに解説します。
1.出願前の開示がもたらす“命取り”とは?
特許の基本要件の一つに「新規性」があります。すでに公開された技術や使用されていた技術については、原則として特許は認められません。
米国特許法 第102条(a)(1) には以下のように定められています:
“(a) NOVELTY; PRIOR ART.-
A person shall be entitled to a patent unless –
(1) the claimed invention was patented, described in a printed publication, or in public use, on sale, or otherwise available to the public before the effective filing date of the claimed invention”
和訳(要点):
クレームされた発明が、有効出願日前に以下のいずれかに該当する場合には、特許を受けることができません。
・特許化されていた
・文献等に記載されていた
・公然と使用されていた
・販売されていた(または販売の申し出がなされた)
・その他の方法で公衆に利用可能であった
日本では公然知られた発明、公然実施された発明、刊行物公知が規定(特許法第29条第1項各号)されていますが、米国法では出願前に商業的に販売されていたりすると、新規性を失う旨が条文中に示されています。
2.Pfaff事件で明らかになった“販売の申し出”の危険性
Pfaff v. Wells Electronics, Inc.(525 U.S. 55, 1998)
この判例で米国最高裁は、出願前の「販売の申し出(offer for sale)」だけで特許は無効になると判示しました。
その判断基準は次の2点です:
(1)発明が(「具体化されている」か)「特許される準備が整った状態」であること(ready for patenting)
(2)商業的な「販売の申し出」があったこと
特に重要なのは、実際に販売された場合のみでなく、販売の申し出があれば足りる点、そして、発明が完成品でなくても、例えば設計図などの段階でも、新規性を失う可能性があるという点です。
*判例のポイント:
ソケット部品の設計図を顧客に送って商談を行っただけで、「販売の申し出」があったとされ、特許は無効とされました。
3.グレースピリオドが適用されない場合も
米国特許法では、原則的に出願前の自己開示に限って12ヶ月のグレースピリオドが認められています(102(b)(1)(A))。
しかし、ここで注意すべきなのが、「販売行為」がその“開示”に含まれるとは限らないという点です。
・§102(b)(1)(A) に記載されているのは、「disclosure made by the inventor」。
・つまり、単なる開示(公開資料やプレゼン)とは異なり、販売(on sale)や商談は「商業行為」と見なされるおそれがあり、グレースピリオドの対象外になる可能性が高いです*。
*複数の解釈があります。
特に、秘密保持契約(NDA)なしで行われた販売の申し出や試供品の提供は、“販売”とみなされるリスクが高まります。
4.実務対策まとめ
対策項目 | 実務対応 |
---|---|
出願前の提供 | 原則として販売や配布を行わない |
やむを得ない場合 | 秘密保持契約(NDA)を締結する |
展示会・商談時 | 「評価目的での無償提供」など、商業性を否定する記録を残す |
出願のタイミング | 米国出願を日本やPCT出願よりも先に/同時に行う |
5.最後に
日本では問題とならなかった行為が、米国では致命傷になるケースは少なくありません。
特に食品業界では、「試食の提供」「サンプル配布」「展示会での発表」が頻繁に行われますが、それが“販売行為”や“公然実施”と判断されると、特許は水泡に帰してしまうことになります。
特許戦略を立てる際は、米国の判例や審査実務の特徴をよく理解した上で、出願タイミングと情報公開を慎重に判断することが不可欠です。
補足:販売行為が問題とならないケースとは?
・試作品が未完成であり、実験目的だったと証明できる場合は、Pfaffの基準に該当しない可能性があります。
・ただし、その証明責任は出願人側にあり、記録や契約書類が重要な証拠となります。