【米国特許実務】特許適格性回復法(PERA)とは?ライフサイエンス業界への影響をやさしく解説

こんにちは。弁理士の高橋です。
2025年5月、米国議会で「特許適格性回復法(Patent Eligibility Restoration Act:PERA)」が再び提出されました。この法案は、米国の特許実務に大きな影響を与える可能性がある重要な動きとして、知財業界で注目を集めています。

出典1:アメリカ議会図書館(Congress.gov)
https://www.congress.gov/bill/119th-congress/senate-bill/1546/text

特に、ライフサイエンス分野(バイオ・医療・診断技術)のイノベーションに関わる方にとっては、知っておきたい内容です。この記事では、このPERAの内容や背景、どのような影響があるのかを、日本人向けにわかりやすく解説します。

1.そもそも「特許適格性」とは?
特許を取得するためには、その発明が「特許の対象になり得るもの(patent-eligible subject matter)」である必要があります。

米国特許法では、基本的に「プロセス、機械、製造物、物質の組成」が対象となりますが、裁判所の判例によって、
・自然法則
・抽象的アイデア
・自然現象
などは「特許対象外」とされています。

出典2:MPEP 「2106 Patent Subject Matter Eligibility [R-10.2019]」
https://www.uspto.gov/web/offices/pac/mpep/s2106.html

2.問題となった過去の判例:Mayo事件とAlice事件
特に注目されたのが以下の2つの最高裁判決です。
・Mayo v. Prometheus(2012年):診断方法が「自然法則の応用」にすぎないとして特許無効になりました。
・Alice v. CLS Bank(2014年):ソフトウェア特許が「抽象的アイデア」だとして無効になりました。

これらの判例以降、診断技術やバイオ技術、AI・ソフトウェア系発明の多くが、特許適格性の壁に直面し、特許を取り難くなりました。

3.PERA(特許適格性回復法)とは?
このような判例によって縮小された特許適格性の範囲を、立法によって元に戻そうとするのが「PERA」です。
2025年に再提出されたPERAは、以下のような内容になっています:
裁判所の判例により生じた例外(自然法則・抽象的アイデアなど)を排除し、特許適格性を明確化。
発明全体(as a whole)として判断することを求める(個々の要素が「慣例的(routine)」であることを理由に排除しない)。
人間の遺伝子そのものなど、完全に自然のものは特許対象外とする一方で、人工的に処理・改変された物質(例:精製・合成されたタンパク質など)は特許可能に。
・特許の適格性判断を、他の要件(新規性・進歩性など)と混同しないよう明文化。

4.PERAがライフサイエンス業界にもたらす影響
4-1.ポジティブな影響(メリット)
診断技術や個別化医療の特許取得が可能になる可能性があります。
米国の特許制度が国際的なスタンダードに近づくことになります。欧州や中国ではすでに一部診断技術の特許化が可能であり、グローバル競争力の観点で重要であるといえます。
「何が特許になるか」が明確化され、審査や訴訟の予見可能性が上がります。

4-2.懸念点(デメリット)
・特許の対象範囲が広がることで、過度に広い特許(パテント・スロット)が生まれ、他の研究や企業の自由を妨げる恐れがあります。
・特許取得が容易になることで患者へのアクセスや医療費の増加につながる懸念があります。

5.なぜ今PERAなのか?背景にある「米国の危機感」
PERAが提出された背景には、「米国が技術競争で中国に後れを取っている」という危機感があります。

最近のレポートでは、米国は64の重要技術分野のうち57分野で中国に後れを取っているとも言われており、知的財産制度の整備は競争力回復の鍵と考えられています。

6.今後の動きは?
2025年5月に上下両院で再提出されたPERAですが、まだ法案として成立したわけではありません。
今後、議会での審議や公聴会を経て、修正・可決されるかが注目されます。

7.これまでの内容まとめ

項目内容
法案名Patent Eligibility Restoration Act(PERA)
提出者米上院・下院の超党派議員
目的特許適格性の基準を明確化・復元すること
対象分野診断技術、バイオ、AI、ソフトウェアなど
影響ライフサイエンスへの投資回復、競争力強化

8.日本の特許実務への示唆
PERAの動向は、日本の知財実務に直接的な影響を与えるものではありませんが、米国に出願するバイオ・医療関連企業にとっては朗報となる可能性があります
また、米国の特許法改正は、国際的な特許制度の流れに影響を及ぼす可能性もあるため、今後の動向に注目しておくべきでしょう。

私自身の経験として、かつて医療機器に関する発明を担当していた際に、ミーンズ・プラス・ファンクション形式と特許適格性の両面から審査官の指摘を受けたことがあり、大変苦労しました。
こうした技術的に優れた発明が、形式的な理由によって権利化を断念せざるを得ない事態が、今回のような法改正によって少しでも減っていくことを期待しています

出典3:Foley & Lardner LLP, “The Patent Eligibility Restoration Act and Life Sciences Innovation”, July 14, 2025
https://www.foley.com/p/102ksqq/the-patent-eligibility-restoration-act-and-life-sciences-innovation/


よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

takahashi(高橋)と申します。弁理士として12年以上、特許出願・FTO調査・無効資料調査など、累計2,000件以上の案件を担当。化学・バイオ分野を中心に、国内外の知財戦略をサポートしています。

食品・知財・投資の交差点から現場の知見を発信中。記事へのご質問や国内特許・海外特許のご相談は、お問合せフォームよりお気軽にどうぞ。

目次