【米国特許実務】食品特許の“step for ~” が危ない!?ミーンズプラスファンクションクレームとその対策

こんにちは。弁理士の高橋です。米国特許出願において、「means for ~」や「step for ~」といった表現があると、ミーンズプラスファンクションクレーム(35 U.S.C. §112(f))として解釈される可能性があります。
これは特に、食品関連の製造方法クレームでありがちな表現でもあるため、注意が必要です。

この記事では、
・なぜ「step for ~」が危険なのか
・審査途中で補正できるのか?
・実際のクレーム例(危険 vs 良い表現)
を、実務経験に基づいてわかりやすくご紹介します。

1.なぜ「step for ~」が危険なのか?
米国特許法§112(f)は、以下のように規定しています:
“An element in a claim … may be expressed as a means or step for performing a specified function without the recital of structure, material, or acts in support thereof …”

つまり、手段(means)やステップ(step)で機能だけを記載している場合、そのクレーム要素は明細書中の対応手段に限定して解釈されてしまいます。
さらに厄介なのは、 明細書に対応する手段(構造や処理ステップ)が十分に書かれていないと、無効や拒絶の原因になってしまうという点です。

2.審査の途中で補正できるの?
結論から言うと、審査途中であれば補正により回避可能です!
たとえ審査官から「§112(f)が適用される」と指摘された場合でも、クレーム表現を、より具体的な動作・手段に補正することで、その判断を覆すことができます。(*明細書中に「より具体的な動作・手段」が記載されている場合。)
ただし注意点として、Final OA以降は補正の自由度が制限されるため、慎重な判断が必要です。

タイミング注意点
初回OA~非Final段階補正・意見書で十分に対応可能
Final OA以降補正の自由度が制限されるため、慎重な判断が必要(RCEや審判も検討)

3.危ないクレーム表現と良い表現(食品分野の例)
以下に、食品製造方法における「危険な表現」と「良い表現」を対比形式でご紹介します。

危険な表現(§112(f)のリスクあり)良い表現(§112(f)回避)
a step for preserving the foodheating the food at 85°C for 3 minutes and sealing in an airtight container
a step for deactivating enzymesimmersing the food in 0.5% ascorbic acid solution for 2 minutes
a step for inhibiting microbial growthintroducing CO₂ gas at 70% into the package before sealing

【注意点:手段の具体性を忘れずに】
「目的」だけを記載するのは非常に危険です。必ず、具体的な“手段”や“行為”に言い換えることが重要なポイントです。
私自身の実務経験でも、「化合物Aと化合物Bを反応させて生成物Cを調製するステップ」や「培地Aに微生物Bを投下して生成物Cを形成するステップ」など、工程としての記載はあるものの、それを実現するための具体的な手段(たとえば“攪拌処理を行う”など)を書き忘れてしまうというミスを経験しています。
これは、AやBといった構成要素のバリエーションに注力しすぎて、“どのように行うのか”という手段の記載が抜け落ちることが原因です。特にミーンズプラスファンクションクレームの観点では、手段が明細書に明確に記載されていなければ無効リスクが高まるため、注意が必要です。

4.実務での対応方針
審査官に§112(f)が適用された場合は、以下のような流れで対応するとスムーズです:
(1)クレームを補正し、曖昧な機能表現を具体的な動作に変更
(2)意見書で補正理由を説明し、§112(f)が適用されないことを論理的に主張
(3)必要に応じて、明細書の開示内容(構造・手段)との対応関係を丁寧に示す

5.まとめ
・「step for ~」は便利な表現に見えて、実はリスクがあります。
・§112(f)と判断されると、明細書との整合性が問題になることがあります。
・(明細書中に手段や動作が具体的に明示されていれば)審査途中に補正で十分に対応可能です。
・§112(f)と判断された場合は、とにかく「目的」ではなく「手段・動作」を具体的に書きましょう!

食品分野に限らず、「〇〇のための手段」、「〇〇のためのステップ」といった抽象的な表現を使うことは実務でよくありますが、米国出願では慎重なクレーム設計と明細書作成が求められます
ブログ読者の皆さまの実務に、少しでもお役に立てば幸いです。

出典:MPEP 2181 Identifying and Interpreting a 35 U.S.C. 112(f) or Pre-AIA 35 U.S.C. 112, Sixth Paragraph Limitation [R-07.2022]
https://www.uspto.gov/web/offices/pac/mpep/s2181.html

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この記事を書いた人

はじめまして。takahashi(高橋)と申します。
弁理士として12年以上、知的財産の実務に携わってきました。これまでに、特許出願・中間対応・FTO調査・無効資料調査など、累計2,000件以上の案件を担当しています。

中でも、化学・バイオ分野の特許を中心に、多くのご依頼をいただいております。
これまで、国内の食品素材メーカーおよび都内中堅の特許事務所に勤務し、現在は弁理士法人の代表として、国内外のお客様の知財戦略を日々サポートしています。

趣味は散歩と弓道。心身のバランスを整える大切な時間です。

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