ドラえもんの秘密道具の中には、ちょっとマニアックで笑ってしまうものがあります。そのひとつが「カツオブシガム」。名前のとおり、鰹節の味がするガムで、未来の猫用品として登場します。猫の大好物である鰹節を、いつまでも噛んで楽しめる夢のおやつ。作中では、ドラえもんが好きになったネコに気に入られようと出した未来のネコ用品のひとつですが、ふと考えてしまいました。―現代の食品技術を使えば、本当に作れるのではないか?
出典1:ドラえもん秘密道具データベース
https://www.doraemondb.com/ddb/index.php?item=%E3%81%8B%E3%81%A4%E3%81%8A%E3%81%B6%E3%81%97%E3%81%8C%E3%82%80
出典2:テレビ朝日ひみつ道具カタログ
https://www.tv-asahi.co.jp/doraemon/tool/ka.html
1.鰹節の香りはなぜ難しい?
鰹節のあの芳醇な香りは、削りたての瞬間が最も強く感じられます。しかし、この香りは揮発性が高く、加熱や乾燥工程であっという間に失われてしまうのが難点です。
従来の香気抽出方法としては、例えば、①常圧蒸留法、②超臨界流体抽出法、③ 液化炭酸ガス抽出法、④含水アルコール抽出法がありますが、
・①の場合、蒸留缶内での原料加熱時間が長く使用溶剤と原料の加熱により特有の煮出し臭気が発生したり、加熱による焦げ臭が発生してしまう
・②、③の場合、鰹節・雑節には酸化され易い魚油成分を含んでいる
・④の場合、フレーバー強度が弱い
などの問題があり、削りたてのような鮮烈な香りを再現できていませんでした。
2.特許技術で香りとまろやかさを両立
ところが、ある日本の特許技術が、この問題を解決できそうなのです。その技術は、特許第3595228号。
この製造方法は、天然ガム質(ペクチンやグアーガムなど)を少量溶かしたイオン交換水に、微粉砕して粒度を整えた鰹節パウダーを混ぜ、さらにアルコールを必要に応じて少量加えて、均一なスラリーにします。
これを「向流接触装置(SCC)」と呼ばれる機械で、60〜100℃という比較的低温・短時間で処理し、香気組成物を効率よく抽出します。
*「SCC(向流接触装置)とは、原料と抽出溶媒を逆方向に流して効率よく香気成分を取り出す装置です。
この工程のポイントは、原料を微粉砕した後に天然ガム質で水溶液の粘度を調整し、SCCを用いることです。これにより、天然の香り成分のロスを最小限に抑えながら、同時にまろやかさを付与することができます。また、茶葉やコーヒー豆、そしてもちろん鰹節でも、鮮度感のある香りを再現できます。
出典3:特許情報プラットフォーム
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-3595228/15/ja
3.現代版「カツオブシガム」試作イメージ
では、この技術を使って「カツオブシガム」を作るとどうなるでしょうか。
製造フローはこうなります。
まず鰹節を60メッシュ以下に粉砕します。
次に、SCCフィードタンクにイオン交換水を加え、続いてエタノールを所定量、さらに天然ガム質を添加、溶解し、溶液粘度を所定値に調整します。
これに先ほど粉砕した鰹節を加え、よく攪拌して均一に分散させます。
更にSCCを用いて処理を行い、所定のストリップ比、カラム温度で香気成分組成物を回収します。
得られた香気成分組成物をガムベースに数%程度添加します。
ガムとして成形・冷却すると、噛んだ瞬間にふわっと削りたての香りが広がり、そのあともほのかな旨みが長く続きます。人間向けなら軽く甘みを加え、猫用なら塩分を控えて動物に安全な配合にすれば、まさに漫画の世界のアイテムが現実化します。
4.実は権利として守られていた!
この特許第3595228号は、2009年9月をもって権利消滅していますが、以下のような請求項が設定されていました。
【請求項1】(省略)
【請求項2】嗜好品及び/又は乾物固形物原料が、茶類、コーヒー豆、鰹節・雑節パウダーである請求項1記載の香気組成物の製造方法。
【請求項3】(省略)
【請求項4】請求項1乃至3で得られた香気組成物又はフレーバーの0.01乃至5重量%を添加することを特徴とする飲食品の調製方法。
【請求項5】飲食品が飲料、冷菓、デザート、めんつゆから選ばれたものである請求項4記載の飲食品の調製方法。
秘密道具「カツオブシガム」の実際の製造方法や効果は分かりません。
しかし、「ドラえもん秘密道具データベース」やテレビ朝日「ひみつ道具カタログ」によれば、「カツオブシガム」の特徴は「未来の猫用品のひとつ。鰹節の味がするガム。」とあります。
この特徴だけを考慮するならば、「鰹節・雑節パウダー」の「香気組成物」が添加された「飲食品」が「デザート」である場合、実は、「カツオブシガム」の製造方法は請求項5によって特許権が及んでいた可能性もあるのです(デザートにガムが含まれると主張した場合)。
5.まとめ
ドラえもんの「カツオブシガム」は、単なる空想では終わりません。現代の食品香気技術を使えば、鰹節の芳醇な香りとまろやかさをそのままガムに閉じ込めることは十分可能です。漫画の中のアイテムが現実の技術で作れる瞬間、それはちょっとした感動を与えてくれます。そして、そんな発想が新しい食品や嗜好品の開発につながるかもしれません。もしかしたら、未来のペットショップやコンビニに、「ジェネリック版」として製造された本物の「カツオブシガム」が並んでいる―そんな未来も、決して夢物語ではないでしょう。