犬の便から寄生虫をAIで予測? ― ペットフード企業Ollieの新特許戦略

ペットフード業界では、ここ数年「健康管理」や「ウェルネス」への関心が高まっています。特に米国では、ペットを単なる家族の一員としてだけでなく、医療やライフスタイルの観点から総合的にケアしようという流れが強まっています。そんな中、フレッシュドッグフードで知られるOllie が取得した最新特許が注目を集めています。それはなんと、犬の便をスマホで撮影し、AIで寄生虫感染の可能性を予測する技術です。

1.Ollieが取得した新特許とニュースの概要
ペットフードインダストリー誌によると、Ollieは便の写真から寄生虫感染を予測するAIツールに関する特許を取得しました。このシステムは、便検査で陽性となるかどうかを 約85%の精度 で判定できるとされ、同社の健康診断アプリに組み込まれる予定です。飼い主は自宅で便の写真を撮るだけで感染リスクを把握でき、必要であれば獣医師に検査を依頼する「一次スクリーニング」として活用できます。

OllieはこれまでもDIG Labsの買収を通じてペットヘルステック分野に力を入れており、今回の特許は同社にとって3件目の健康スクリーニング特許となります。公開時期はまだ未定ですが、「ペットフード企業が健康診断技術に特許を持つ」という事実自体が、業界に新しい流れをもたらしている点は見逃せません。

2.関連特許US 11,803,962 B2の内容
今回の話題に関連して、Ollieが保有する特許 US 11,803,962 B2 (“Animal health assessment”) についても解説します。この特許は、便などの「生物学的試料」の画像解析による健康評価システムを保護するものです。

  • 飼い主がスマホで便を撮影し、サーバーに送信
  • 画像処理で便部分を切り出し、形状・色・テクスチャなどの特徴量を抽出
  • 機械学習モデルを用いて腸内環境や消化器リスクを予測
  • 犬種や食事履歴などのメタデータを組み合わせ、精度を高める
  • 結果に基づき、個別化された食事・サプリメント・行動改善プランを提示

特許上は「機械学習による分類・予測」と抽象的に記載され、具体的なアルゴリズムまでは明示されていません。便画像+犬データを統合して健康指標を推定し、フードプランに反映できるシステム全体を保護しているようでした。

3.Ollieのアメリカでの知名度と市場での立ち位置
Ollieは米国では比較的知られたフレッシュフードブランドですが、一般のスーパーやペットショップで売られている大手ドライフードに比べると、知名度はまだ限定的です。D2C(直販・サブスクリプション型)で健康志向の高い層に支持されており、Petcoとの提携により店舗販売も開始されています。AIを用いた健康診断機能が加わることで、ブランドの拡大余地はあります。

4.メリットと課題
メリットは明らかです。
・飼い主が手軽に寄生虫リスクを把握できる
・早期発見につながり、犬の健康被害を減らせる
・便データの蓄積により、地域別の感染マップ作成も可能

課題もあります。
・データ管理やプライバシーの問題
・85%の精度では偽陰性リスクが残る
・撮影環境によって精度が変動する
・AIを過信して獣医師の検査を怠る危険性

5.フード企業が特許で狙う未来
Ollieの事例は、ペットフード企業が単に栄養価やレシピ改良を競うのではなく、「フード+テクノロジー」という新しい競争軸を取りに行っていることを示しています。便解析の結果に基づき、個別に最適化されたフードを提案・販売できれば、従来型の「総合栄養食」を超えた新しいビジネスモデルが成立します。人間の分野ではすでに「フードテック×AIヘルスケア」が進んでいますが、ペットの世界でも同様の波が確実に来ているのです。

6.まとめ
Ollieの特許は 「便の画像解析で健康リスクを予測し、その結果をフード提案につなげる」 というユニークな試みです。ペットフード企業が自社商品と直結したヘルステックを特許で押さえ始めたことは、業界全体に大きな影響を与える可能性があります。

個人的な経験として、幼い頃に祖父母の家でヨークシャーテリアを飼っていましたが、最期にフィラリアで亡くなってしまいました。足がむくんでしまい、最期は上手く座って眠ることもできない状態でした。もし当時このようなAIによる予測システムがあれば、早期に感染リスクを察知でき、穏やかに寿命を迎えられたのかもしれません。飼主としては、こうした技術が普及することで、大切なペットの命を守る手段が増えることを期待せずにはいられません。

出典1:ペットフードインダストリー
https://www.petfoodindustry.com/news-newsletters/pet-food-news/news/15768431/ollie-ollie-patents-ai-tool-to-predict-canine-parasite-infections

出典2:US 11,803,962 B2
https://patents.google.com/patent/US11803962B2/en?oq=US11803962B2

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この記事を書いた人

Yoshiharu Takahashi(高橋)と申します。都内特許事務所にて弁理士として12年以上活動し、特許出願、FTO調査、無効資料調査など、これまでに累計2,000件以上の案件を担当してきました。主に化学・バイオ分野を中心に、国内外の知財戦略を幅広くサポートしています。

弁理士業務のかたわら、「食品×知財×経済」の交差点から現場の知見を発信しています。記事に関するご質問や、国内外特許に関するご相談は、お問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。特許のご相談については、フォーム送信後、所属事務所より折り返しご連絡いたします。

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