牛乳でお腹がゴロゴロする人へ─「A2ミルク」という新しい選択肢

「牛乳を飲むとお腹がゴロゴロする」「下痢になりやすい」─
そんな経験はありませんか?特にアジア人は乳糖不耐症の割合が高く、日本人でも成長とともに乳糖を分解しにくくなる人が多いと言われています。

でも、ちょっと待ってください。最近の研究で、牛乳の“たんぱく質の種類”が原因になっているケースもあることがわかってきました。

キーワードは「A2ミルク」。本記事では、A2ミルクとは何か、なぜお腹にやさしいのか、そして今なぜ注目されているのか、科学的な視点から解説します。

1.牛乳に含まれる「β-カゼイン」の正体
牛乳のたんぱく質の約80%は「カゼイン」と呼ばれる成分です。このうち、約30%を占めるのが「β-カゼイン」。

このβ-カゼインにはA1型とA2型という2つのタイプがあります。
この違いは、209個のアミノ酸のうち、たった1か所(67番目)が異なるだけ。A1型では「ヒスチジン」、A2型では「プロリン」がその場所に存在しています 。

しかし、このわずかな違いが、私たちの体に大きな影響を及ぼすことがあるのです。

2.お腹ゴロゴロの原因は「BCM-7」かも?
A1型β-カゼインを消化するとき、腸内で「BCM-7(ベータ・カソモルフィン-7)」というペプチドが生成されることがあります。このBCM-7は、オピオイド様の作用(=鎮痛作用)を持ち、腸の動きを抑えたり、炎症反応を促進したりする可能性が指摘されています。

一方、A2型β-カゼインは、構造上BCM-7が生成されにくく、消化による腸への刺激が小さいと考えられています 。

3.A2ミルクとは?「A2A2型」の牛がポイント
「A2ミルク」とは、A2型のβ-カゼインだけを含む牛乳のこと。
そのためには、A2型の遺伝子を両方持つ牛(=A2A2型)から搾乳する必要があります。

牛の遺伝子型ミルクに含まれるβ-カゼイン牛乳の種類
A1A1A1型のみ一般的な牛乳
A1A2A1型+A2型一般的な牛乳
A2A2A2型のみA2ミルク

牛も人間と同じように、2つの対立遺伝子(アレル)を持っています。A2A2型というホモ接合体の牛であれば、A2型β-カゼインしか産生されず、BCM-7のリスクも低くなります。

4.科学的な裏付け─A2ミルクの研究結果
2020年に発表された国際論文(Nutrients誌)では、中国人の子どもたち(4~7歳)80人を対象に、A2ミルクと一般的な牛乳を比較する実験が行われました 。

結果は次の通りです:
・A2ミルクを飲んだグループの方が胃腸症状が軽くなった
・乳糖の消化も改善されていた
・腹痛、便の質、腹部膨満感なども緩和された

この研究は、乳糖ではなくβ-カゼインの種類が不調の原因になっている可能性を示しています。

また、Jミルクの調査では、「乳糖ゼロ」のミルクでもお腹の調子が悪くなる人が一定数いることがわかり、その原因としてA1型β-カゼインが疑われています

5.安心できる品質管理体制
日本A2ミルク協会では、遺伝子検査によってA2A2型の牛を選抜し、A2型β-カゼイン100%のミルクを提供する体制を整えています。また、搾乳から製造・流通に至るまで、トレーサビリティや検査体制が整備されており、A1型が混入しないよう徹底管理されています 。

6.A2ミルクはどこで買える?
現在、A2ミルクは一部の乳業メーカーやオンラインストアで入手可能です。近年は認知度も上がり、スーパーなどで見かける機会も増えてきました。

7.まとめ:「牛乳=お腹がゴロゴロ」はもう過去の話?
これまで牛乳を避けてきた方も、「実は乳糖ではなくA1型β-カゼインが原因だった」という可能性があります。
A2ミルクは、そんな方にとって新たな選択肢となるかもしれません

科学的根拠に基づいた「お腹にやさしい牛乳」、それがA2ミルクです。
ぜひ一度、ご自身の体で違いを体感してみてはいかがでしょうか?

出典1:Nutrients 2020
https://www.mdpi.com/2072-6643/12/12/3855

出典2:一般社団法人Jミルク
https://www.j-milk.jp/report/study/h4ogb4000000g155-att/JMilk_FactBook_2024_08.pdf

出典3:日本A2ミルク協会
https://www.japan-a2milk-association.or.jp/

参考特許:特許情報プラットフォーム
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-6873234/15/ja

特許解説:牛乳にはβカゼインというタンパク質が含まれます。この特許の中では、β‐カゼインの中でも、特にA2型β-カゼインという特定の型(バリアント)を高濃度(少なくとも75%以上)含む乳や乳製品は、ヒト(や動物)の腸内環境(腸内細菌叢)を改善できたことを実証しています。

A1型β-カゼインは消化の際にBCM-7というオピオイドペプチドを生成し、腸の炎症や免疫異常を引き起こす可能性があります。一方、A2型βカゼインはこれを生成しないため、腸内の短鎖脂肪酸(特に酢酸や酪酸)のレベルを向上させ、腸の健康維持や疾患予防に寄与します。この特許による製品は、乳や乳製品の成分を調整して、腸内細菌の構成を理想的な方向へ変化させます。

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この記事を書いた人

Yoshiharu Takahashi(高橋)と申します。都内特許事務所で弁理士として12年以上、特許出願・FTO調査・無効資料調査など、累計2,000件以上の案件を担当。化学・バイオ分野を中心に、国内外の知財戦略をサポートしています。

食品・知財・経済の交差点から現場の知見を発信中。記事へのご質問や国内特許・海外特許のご相談は、お問合せフォームよりお気軽にどうぞ。

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