ココア価格の急転換 ― 「高止まり」から「需給緩和」へ?~2025年秋、チョコレート原料に何が起きているのか~

1.あの「高騰相場」に変化の兆し
2025年7月初旬のブログ記事「なぜココアはこんなに高いの? 気候変動とFRBの政策がもたらす”甘くない”現実~気候変動・通貨安・金融政策…チョコレートの裏にあるグローバル経済の波~」では、ココア価格が過去最高水準に達した背景として、
・西アフリカの異常気象による供給不安
・通貨安による輸出減少
・金融市場の投機的な買い
などを挙げました。

しかし、10月に入り、状況は大きく変わり始めています。
最新のニュースでは、ココア価格が急落し、アナリストの見通しも「需給緩和」方向へ修正されました。
つまり、「高値が続く」という前提が崩れ始めているのです。

2.ココア先物が反転、半年ぶりの安値圏へ
2025年10月20日時点で、ニューヨーク先物市場のココア価格は2024年12月の最高値(12,931USD/T)から50%以上下落しています。

背景には、次の3つの要因が指摘されています。
天候回復による供給改善:ガーナやコートジボワールで雨季が順調に推移し、生産見通しが上方修正されています。
農家支援策の効果:現地政府がファームゲート価格(=農家からカカオ豆を買い取る際の価格)を引き上げ、密輸を抑制しています。
需要の鈍化:欧州・アジアの加工業者が高値によるマージン圧迫で生産を一時抑制しています。

出典1:Reuters
https://www.reuters.com/world/africa/high-prices-bad-quality-slow-down-ivory-coast-cocoa-purchases-sources-say-2025-10-17/

これらの要因により、「供給不足」から「在庫積み上がり」へと相場の重心がわずか数カ月で転換しました。

3.UBSなどの価格見通しの引き下げ
10月中旬、スイスの金融大手UBSはココア価格の年末見通しを大幅に下方修正しました。

出典2:UBS
https://jp.investing.com/news/commodities-news/article-93CH-1270727

出典3:Trading Economics
https://jp.tradingeconomics.com/commodity/cocoa

理由として挙げられるのは、
主要産地の天候回復による供給改善:ガーナやコートジボワールでの生産回復が見込まれています。
加工業者の需要鈍化(特に欧州):高価格が需要を抑制しています。
投機筋のポジション整理(利益確定売り):市場の調整が進んでいます。

これにより、「気候変動による供給制約」が主導した上昇局面から、「市場調整+需給バランス回復」フェーズへと移行しつつあるといえます。

4.9月時点の仮説と10月時点の変化

要因9月時点の見方10月時点の変化
気候変動干ばつで供給減少雨量回復により生産改善
通貨安輸出意欲減退ファームゲート価格上昇で回復傾向
投機マネー高騰を助長利益確定で流出・売り優勢
需要動向高価格でも堅調高値で一部需要後退(加工業者)

当初の「上昇ドライバー」のうち複数が逆方向に働き始め、相場が再び“現実的”な水準に戻りつつあります。

5.食品業界・消費者にとっての意味
食品業界としては、これまでの「原料高」前提の値上げ圧力は一服しそうですが、在庫や長期契約の関係で、小売価格がすぐに下がるわけではありません。

消費者にとっては、すぐに価格が下がるわけではないものの、“これ以上の値上げは起こりにくい”という安心感が広がるかもしれません。

また、代替チョコ素材やカカオレス製品の開発が進んでおり、チョコレートの多様化が加速しています。

6.代替チョコ素材に関連する特許-特許6947325
チョコレートの主原料であるカカオの価格高騰や供給不安が深刻化している中、特許第6947325号「ココア代替物」では、ビール製造時に発生する副産物「ビール粕」から、ココアのような風味と色調を持つ代替素材を生み出す技術が提案されています。ビール粕をアルカリ条件下で加熱・抽出し、得られたタンパク質を乾燥粉末化することで、穀物臭が少なく滑らかな食感を持つ“ココア代替物”が得られる点が特徴です。

この技術により、チョコレートやココア飲料に近い味わいを実現できるだけでなく、廃棄物の再利用による環境負荷の軽減や原料コストの削減にもつながります。カカオに依存しない持続可能な食品づくりの一歩として、今後の応用展開が期待される発明です。

出典4:特許情報プラットフォーム
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-6947325/15/ja

7.まとめ
ココア価格の急落は、単なる“反動”ではなく、需給構造そのものの変化を示すサインです。気候変動・政策・消費構造など、多層的な要因が交錯しており、今後も上下動の大きい展開が続くかもしれません。2025年7月に書いた「ココア高騰の理由」が、いまや「ココア安定化の理由」へと変わりつつあり、このスピード感こそがグローバル素材市場のダイナミズムを物語っています。

なお、ココア価格の安定化は既存製品にとって安心材料ですが、代替チョコやカカオレス製品の研究開発の価値が薄れるわけではありません。健康志向やアレルギー対応、サステナブル消費など、消費者ニーズの多様化に応える上で、こうした製品の開発は今後ますます重要となります。

※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄や金融商品の購入・売却を勧誘するものではありません。投資に関する最終的な判断はご自身で行ってください。また、本記事の内容によって生じたいかなる損失についても、当サイトでは一切の責任を負いかねます。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

Yoshiharu Takahashi(高橋)と申します。都内特許事務所にて弁理士として12年以上活動し、特許出願、FTO調査、無効資料調査など、これまでに累計2,000件以上の案件を担当してきました。主に化学・バイオ分野を中心に、国内外の知財戦略を幅広くサポートしています。

弁理士業務のかたわら、「食品×知財×経済」の交差点から現場の知見を発信しています。記事に関するご質問や、国内外特許に関するご相談は、お問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。特許のご相談については、フォーム送信後、所属事務所より折り返しご連絡いたします。

目次