前々回の記事(「①暑くて夏バテ気味…そんなとき、ウナギ食べたくなりませんか?」)では、ウナギの完全養殖が「技術的には実現されているが、商業レベルでの安定供給にはまだ課題が多い」という現状をお伝えしました。では、その課題を克服するために、現在どのような研究や技術開発が進められているのでしょうか?
今回は「特許」という視点から、ウナギ完全養殖の“いま”と“これから”を探ってみたいと思います。
1.特許第7606689号
出典1:特許情報プラットフォーム
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7606689/15/ja
この特許はヤンマーホールディングスと水産研究・教育機構の共同出願による特許で、令和6年の12月に登録されました。この発明は、ウナギなどの仔魚(しぎょ)を効率的かつ健康的に飼育するための水槽および飼育装置に関するものです。
従来の水槽では、以下のような課題がありました:
・餌が水槽の底に集中してしまい、餌場が狭くなる
・水槽の底で仔魚が頭を擦って脱臼してしまう
・強すぎる水流によって奇形が生じる
本発明では、水槽の構造や水流設計を工夫することで、これらの課題を解決。仔魚の脱臼や奇形の発生を抑えつつ、餌の分布を広げ、より多くの仔魚に効率的に給餌できるようになりました。これにより、生産効率の向上が期待されます。
2.特許第7671080号
出典2:特許情報プラットフォーム
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7671080/15/ja
この特許は、水産研究・教育機構による出願で、令和7年4月に登録されたばかりの最新の技術です。
ウナギの仔魚をシラスウナギへ変態させる過程では、高度な飼料開発が必要でした。従来はサメ卵粉末や乳タンパク・鶏卵黄末を用いた飼料が一定の成果を上げていましたが、特に乳タンパクを含む飼料では50%以上の確率で形態異常が発生するなど、大きな課題が残っていました。
この発明では、ヌクレオチド、ヌクレオシド、ポリヌクレオチドなどの核酸類を含む飼料を用いることで、変態時に生じる形態異常を顕著に抑制することに成功しました。これにより、正常な形態での変態率が向上し、養殖に適した品質の稚魚を安定的に生産できるようになりました。
3.特許第6970992号
出典3:特許情報プラットフォーム
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-6970992/15/ja
出典4:愛知県庁HP 「大きくて、おいしいうなぎを作り出すことに成功しました~新しいうなぎ養殖技術を開発~」
https://www.pref.aichi.jp/soshiki/suisan/ogata-mesuunagi.html
この特許は、愛知県・共立製薬・一色うなぎ漁業協同組合による共同出願で、令和3年11月に登録されました。
対象となるのは、シラスウナギから小ウナギへと成長する過程で発生する問題です。
この時期、養殖環境下ではほとんどが雄に成長する傾向があり、身や皮が硬くなるため商品価値が下がるという課題がありました。
本発明では、シラスウナギから小ウナギに成長する時期に大豆イソフラボンを所定量以上添加することで、ウナギの雌化を誘導することに成功しました。これにより、雄に比べて大きく、身が柔らかい雌ウナギを育てることが可能となり、ウナギ資源の有効利用が期待されます。
4.まとめ:実用化のカギは“技術”と“継続”
ウナギの完全養殖の商業化は、決して一朝一夕に実現できるものではありません。
しかし、今回ご紹介したように、各段階の課題に対応する技術が着実に開発されつつあります。特許の出願状況からも、この分野がいま大きく動いていることが分かります。
ウナギをこれからも私たちの食卓に届け続けるために、そして天然資源への依存を減らすために、技術開発と研究の継続が不可欠です。