こんにちは。弁理士の高橋です。
料理や食品開発に携わっていると、「このレシピ、他人に真似されたらどうしよう…」「アイデアに価値があるのに、守れないの?」と感じることはありませんか?
実は、レシピにも特許が取れる場合があります。
ただし、「どんなレシピでもOK」というわけではなく、特許として認められるためには、いくつかの条件を満たす必要があります。
この記事では、初心者の方にもわかりやすく、レシピが特許になるための3つのポイントと、実際の事例や注意点について解説していきます。
1.「特許」とは? まずは基本から
特許とは、新しい技術的アイデア(=発明)を、一定期間独占的に使用できる権利のことです。
出願人(または代理人である弁理士)が特許庁に出願し、審査を経て登録されることで、初めて法的効力を持ちます。
「レシピ=料理のアイデア」は一見、特許とは関係ないように思えるかもしれません。
しかし、調理工程や原料の組み合わせに「技術的な工夫」があれば、特許の対象となる可能性があります。
たとえば:
・「ある原料を順番に混ぜることで、油を使わずにクリーミーな食感が出る」
・「通常は臭みや苦味で食用に向かない素材を、特定の工程を経て美味しく調理できる」
といったように、再現性があり、かつ他にはない技術的な特徴があれば、特許取得の余地が生まれます。
2.レシピが特許になるための3つのポイント
ここからは、レシピが特許として認められるために必要な3つの条件を紹介します。
(1)新規性:どこにも公開されていないこと
特許として認められるには、そのレシピが「新しい」こと(=新規性)が必須です。
たとえオリジナルのレシピであっても、ブログやSNSなどで既に公開している場合、「公知技術」とされてしまい、特許が取れないことがあります。
このため、出願前に公開しないことが大切です。
(2)進歩性:専門家でも簡単には思いつかない工夫があること
「進歩性」とは、同じ分野の専門家が見たときに「これは簡単に思いつく内容ではない」と評価されることを意味します。
例えば、「卵を豆腐に変えた」程度では、単なる置き換えであり進歩性はありません。
一方、「豆腐を~℃で処理することで、卵のようなふわっとした食感が出せる」の場合には、技術的工夫が認められて進歩性に繋がることがあります。つまり、単なるアレンジではなく、「技術的発明」としての工夫が必要です。
(3)実施可能性:誰でも再現できるように明確に書けること
特許出願には、その技術を他人が再現できるレベルで詳細に記述することが求められます。
「少々」「適量」「適温」といったあいまいな表現では不十分であり、具体的な数値で示す必要があります。
3. 実際にレシピで特許を取った事例
ここでは、実際にレシピ(または調理法)で特許を取得した事例をご紹介します。
特公平04-057310 (特許1762503)
出典:特許情報プラットフォーム https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-H04-057310/12/ja
発明の名称:「沖アミを用いた蟹風味そぼろ調理法」
この発明は、栄養価が高く将来の蛋白資源として注目される「沖アミ」を、風味を活かしたそぼろ状食品として一般向けに利用するための調理法です。
沖アミはこれまで主に飼料や釣り餌として使われており、人の食品としてはほとんど流通していませんでした。理由は、独特の臭みと味の強さにより、そのままでは食用に向かないからです。
出願当時、この点に着眼した調理法が公開されていなかったため、新規性を有していました。
この発明では、以下のような工程が工夫されています:
(1)沖アミからエキスを抽出し、煮詰めて旨味成分を濃縮
(2)そこに乾燥卵白とバイタルグルテンを加え、加熱・撹拌してそぼろ状の粒状素材を生成
(3)この粒状素材を、加熱で引き締まった沖アミの身と混ぜ合わせて完成
*特許明細書の中で更に詳細が記載されています(=実施可能性)。
このように、素材の臭みを抑えつつ旨味を活かし、蟹風味のそぼろに仕上げるという調理法が、技術的に評価されて(=進歩性)特許として認められました。
4.まとめ
レシピは単なる“アイデア”では特許になりませんが、調理工程や組成に再現性と技術的工夫がある場合には、立派な「発明」として特許が認められることもあります。
大切なのは、
①公開前に出願を検討すること(新規性)
②単なるアレンジではなく、技術的特徴を意識すること(進歩性)
③誰でも再現できるように数値化して整理すること(実施可能性)
です。もしご自身のレシピに「これって他にない技術かも?」と感じるものがあれば、ぜひ一度専門家に相談してみてください。