2025年10月現在、通貨安とインフレ、さらには気候変動や異常気象(例えば、ブラジルの干ばつ)などが重なり、コモディティとしての農産品価格が世界的に上昇しています。特にコーヒー豆は、世界中で膨大に取引される「食料コモディティ」のひとつ。現在の価格上昇は、原料調達コスト、物流・エネルギーコスト、関税・為替変動など複数要因が重なった結果と考えられます。
コーヒー先物のリアルタイムチャートはこちら: Investing.com — US Coffee C Streaming Chart
こうした背景のもと、コーヒー需要に対して“代替品を模索する”動きが、研究開発面でも事業面でも注目を集めています。「どうすればコーヒーらしい風味・香味を維持しつつ、コストを抑えたり環境負荷を軽くしたりできるか」がポイントです。以下では、国内外の特許例を手がかりに、技術方向性を整理しつつ、最新の動向も交えて整理してみます。
(注:以下で紹介する特許は、ブログ用に調査可能な範囲で抽出したものであり、実際にはさらに多くの特許が存在する可能性があります。詳細な技術探索や出願検討時には別途網羅的な検索が必要です。)
1.特許例から見るコーヒー代替アプローチ
まず、コーヒー代替やコーヒー風味の飲料・成分を扱う主要な特許例を整理してみましょう。
焙じ茶(緑茶系)を活用するパターン ― 特許7674724
この特許は、「上級煎茶を低温長時間焙煎し、濃厚抽出すれば“深煎りコーヒーに似た酸味・香ばしさ・コク”が得られる」との知見を基に、特定の成分範囲を満たす複数の茶葉種(煎茶、茎茶、番茶など)を焙煎・混合し、カフェイン濃度を一定以下とした焙じ茶飲料を、“コーヒー様香味”飲料として提供する旨を記載しています。
ポイントとしては、
- 茶葉の含窒素率、タンニン、カフェイン含有率などの定量制御
- 焙煎工程+抽出条件の設計
- 複数茶葉をブレンドすることによる風味調整
という構成を採っており、緑茶由来で“コーヒー風味”の調整を行う点が興味深い手法です。
糖質/オリゴ糖処理で味調整 ― 特許6771824
こちらは、ゲンチオオリゴ糖を含む糖質に加熱処理を施し、苦味を増強する技術を開発したものです。具体的には、オリゴ糖溶液を一定濃度に調整し、その光学吸光特性(420 nm 〜 720 nmの差から得られる着色度)を指標とした、苦味強化処理されたオリゴ糖を取得する点が記載されています。
コーヒー代替品において、甘味・苦味・コク調整は極めて重要因子であり、このような糖質処理技術は、代替飲料への風味エンハンサーとして組み込まれる可能性が高い手法です。
根菜系素材(ごぼう)を用いたコーヒー様飲料 ― 特許6029404
この特許は、ごぼうの根部分を煎じ・焙煎することで、コーヒーと近似する味・香り・色調を持つカフェイン含有量ゼロ飲料を得る方法を記載しています。具体的にはブランチング、カット、適切な焙煎条件の設定により土臭さを抑え、コーヒー様風味を引き出すことを狙った技術です。いわゆる“ごぼうコーヒー”です。
メイラード反応生成物を活用 ― 特許6277128
こちらは、糖とアミノ酸、クロロゲン酸を特定比率で配合し、焼成(焙焼処理)を施すことで、コーヒーに類似した味覚を持つメイラード反応生成物を得るという手法が記載されています。特に、これら原料にはカフェインを含まず、結果としてカフェインフリーのコーヒー代替物を得られるという点がポイントです。原料設計+メイラード反応制御という「成分ベースのアプローチ」です。
生薬混合型 生薬混合型 (タンポポ根+高麗人参)― 特許4521340
この古い特許では、タンポポの根粉末と高麗人参粉末を混合し、焙煎処理して“コーヒー様飲用組成物”を得るというものです。薬理機能や健康訴求との兼ね合いを狙ったアプローチですが、実際には風味や嗜好性維持の観点で課題が残るかもしれません。
2.技術傾向の整理
上記特許例を整理すると、コーヒー代替品技術には少なくとも以下の方向性があります:
アプローチ | 主な素材/手法 | 特徴・利点 | 課題・留意点 |
---|---|---|---|
茶葉系代替(焙じ茶) | 煎茶、茎茶、番茶など | 既存茶のバリューアップ、原料流用可能性 | 風味のバランス調整、カフェイン制御、豆感の再現性 |
根菜・穀物・野菜素材 | ごぼう、タンポポ根、大麦、穀物等 | 非豆系でカフェインフリー素材、差別化可能 | 土臭さ/雑味の除去、香味の深み確保 |
合成/反応制御型 | 糖+アミノ酸+クロロゲン酸 → メイラード反応生成物 | 原料設計の自由度、成分制御性、カフェインレス | 安定化、コスト、風味の自然感確保 |
風味添加・調味補助型 | 加熱オリゴ糖、香味エキス、苦味調整 | 既製品とのブレンド、風味チューニング | 相互相性、官能調整、コストバランス |
3.海外における最新代替コーヒー動向
気候変動の影響でコーヒー生産地の減少予測もあり、途上国の干ばつ被害なども重なって、豆供給は揺らぎつつあります。その結果、米国/アジアでは、壊米(broken rice)由来代替品などがコスト優位性をもつ可能性が報じられています。ただし、いずれも“本格的なコーヒーの代替”として広く受け入れられるには、味や香味の再現性、コスト競争力、法規制・表示ルール、消費者受容性といった壁を越える必要があります。
出典1:FOOD DIVE, “High coffee prices brew interest in bean-free alternatives”
https://www.fooddive.com/news/bean-free-coffee-alternatives-high-prices/756459/
4.まとめ
コーヒーの代替品というテーマは、技術的なチャレンジが多い一方で、原料価格高騰、サステナビリティ志向、消費者健康志向の追い風もあります。上述した特許例はあくまで入り口のひとつであり、実際には、植物細胞培養、酵素触媒系、遺伝子改変原料、発酵プロセス、ナノテクスチャー操作など、より先鋭なアプローチも世界では進んでいます。
出典2:特許情報プラットフォーム
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/