食品づくりにおいて「水分」は、味や食感だけでなく、保存性や歩留まりを左右する重要な要素です。たとえば麺のコシやパンのふくらみ、米飯のしっとり感、焼き菓子のサクサク感。これらは水分量によって微妙に変化します。従来、水分率の確認は試料を取り出して乾燥法などで測定するのが一般的でしたが、時間がかかり、製造ラインの制御にリアルタイムで反映させるのは困難でした。
こうした課題に応えるのが、島津製作所が開発した「食品向けインライン水分率モニタシステム(MMSシリーズ)」です。非接触・非破壊で高速に水分率を測定できる装置として、食品製造現場で注目されています。
1.リアルタイム・非接触・高精度の測定
MMSシリーズは、食品の表面に電磁波を照射し、その反射データを解析することで水分率を推定します。食品に触れることなく、しかもわずか0.1秒というサンプリング周期で測定できるのが大きな特徴です。精度は±1%以内、同条件での再現性は±0.1%と、品質管理の基準に十分対応できるレベルです。
試験データでは、中華麺生地(厚さ約10mm、水分率38〜42%)を対象にした場合、実際の水分率に対する誤差は±0.16%以内に収まったとされています。これは従来のオフライン分析に匹敵する精度を、ライン上で実現したことを意味します。
2.適した食品と導入が見込まれる業界
では、どんな食品や食品メーカーに適しているのでしょうか。
・製麺業界:うどん、そば、中華麺などの麺類は、水分が数%変わるだけで食感が大きく変わります。コシや弾力を安定させるために、製造ラインでの連続モニタリングは非常に有効です。
・製パン・製菓業界:パン生地やクッキー、ビスケットなどは、水分が仕上がりのふくらみや食感、焼き上がり後の保存性に直結します。リアルタイム測定により、生地状態のばらつきを抑え、均一な品質を確保できます。
・米飯・惣菜業界:コンビニやスーパー向けの弁当やおにぎりでは、ご飯の水分管理が味の決め手です。乾きすぎればパサつき、含水率が高すぎればべたつきにつながります。ラインに組み込むことで安定した品質が可能になります。
・スナック・乾燥食品メーカー:ポテトチップスや乾燥野菜などは、仕上げの含水率が保存性やサクサク感に直結します。リアルタイムで水分を検出し、乾燥工程を最適化することで歩留まりやエネルギー効率の改善にもつながります。
3.応用例と期待される効果
3-1.品質の均一化
生産ロットごとに微妙に異なる水分率をリアルタイムで補正できるため、消費者に届ける製品の味や食感のばらつきを抑えられます。
3-2.効率的な工程管理
乾燥や加熱の工程でリアルタイムに水分を監視できるため、過乾燥や不十分な乾燥を防止。エネルギーコストの削減にもつながります。
3-3.フードロス削減
水分率のばらつきによる規格外品や廃棄品の発生を減らすことで、フードロス削減に寄与します。これは食品メーカーにとって社会的責任の観点からも重要なポイントです。
3-4.衛生性の向上
非接触方式であるため、食品にセンサーが触れず、異物混入や衛生リスクを低減できます。HACCP対応の現場でも安心して導入できます。
4.今後の展望
食品産業では、DX(デジタルトランスフォーメーション)の一環として、製造ラインのデータを収集・解析し、品質や効率を高める取り組みが広がっています。MMSシリーズのようなリアルタイムセンサーは、その中心的役割を担う技術の一つです。
今後は、AIとの連携によって「水分率の変化を予測し、工程条件を自動制御する」ようなスマートファクトリー化も進むでしょう。食品メーカーにとって、水分管理は単なる品質保証にとどまらず、コスト削減やブランド力強化の手段ともなり得ます。
5.まとめ
島津製作所のMMSシリーズは、「水分」という食品品質のカギをリアルタイムで見える化する革新的な技術です。麺、パン、米飯、スナックといった幅広い食品に応用可能であり、品質の均一化やフードロス削減にも直結します。今後の食品産業のスマート化において、大きな役割を果たすことが期待されます。
出典:島津製作所公式HP プレスリリース
https://www.shimadzu.co.jp/news/2025/xwwc-ne6m2p3_9wp.html
