2025年9月12日、日本電気株式会社(NEC)は、伊藤園に対してマーケティング施策立案ソリューション「BestMove(ベストムーブ)」の提供を開始しました。伊藤園は、緑茶飲料をはじめとする商品の販売促進に向け、BestMoveを本格的に活用していくとのこと。この記事では、その背景・仕組み・生成AIの役割・導入効果・今後の展望について整理してみます。
1.背景:迅速で効果的な施策が求められる時代
伊藤園はテレビやWeb、SNSなど多様なチャネルを通じてブランド認知を高めてきましたが、現場では「施策立案のスピード不足」「効果予測の精度の限界」「ターゲットやクリエイティブの試行錯誤が非効率」といった課題を抱えていました。消費者の嗜好が目まぐるしく変化し、接触点も細分化する今、こうした課題は競争力に直結します。
2.BestMoveとは?データ×生成AIによるソリューション
BestMoveはNECのクラウド型ソリューションで、クレジットカードやID-POSといった購買傾向データをAIで解析し、特定の商品に関心を持つ可能性が高い顧客層を抽出します。さらに注目すべきは生成AIの活用です。
3.生成AIの役割
(1)コピーや広告文案の生成
例として伊藤園の「お点前、シャカシャカでございます」というユニークなコピーは生成AIが提案したもので、人間の発想を補完するアイデア源となっています。
(2)ビジュアルイメージの作成
出演者の表情やポーズをAIで生成し、広告の絵コンテを具体化。撮影前に完成像を共有でき、制作効率が大幅に向上します。
(3)多言語対応
インバウンド需要を見据えたコピーの翻訳やローカライズも支援。単なる直訳ではなく文化的背景を踏まえた「伝わる表現」を提示します。
こうして「誰に届けるか」というデータ分析と、「どう伝えるか」という表現力をAIで橋渡しするのがBestMoveの強みです。
4.実例:「matcha LOVE 抹茶」での活用
先行導入事例として、抹茶パウダーイン飲料「matcha LOVE 抹茶」があります。BestMoveを活用し、ターゲット層を分析した上で独創的なコピーやビジュアルを短期間で制作。SNS「X」で公開した動画は、同様の過去動画と比べて24時間で閲覧数が125%増の約3.1万回を記録しました。制作日数も3日から2日に短縮され、コストも約33%削減されるなど、効率と成果の両立が実現しています。
5.効果の本質:効率化と質の両立
BestMove導入の成果は、単なる時間短縮にとどまりません。
・ターゲット精度の向上により広告投資の無駄を削減
・クリエイティブの質向上で新しい発想を獲得
・反応率の改善によるROIの向上
・業務効率化と人材育成の両立
特に生成AIの導入は、マーケティングを「経験と勘」から「データと創造性の融合」へと進化させる鍵となっています。
6.今後の展望と課題
伊藤園は今後「お〜いお茶」など主力ブランドにもBestMoveを活用する方針で、NECもBluStellarの一環として他業界への展開を進めます。ただし、データ活用におけるプライバシー保護、AI出力の偏りやブランドトーンとの整合性、人間の最終判断の必要性といった課題も残されています。
7.総括:マーケティングの新しい常識へ
BestMoveは「データでターゲットを見極め、生成AIで最適な表現を作る」という新しいマーケティングの形を提示しています。伊藤園の事例は、AIが人間の仕事を置き換えるのではなく、確信を持って一手を打つためのパートナーとなり得ることを示しました。今後、このようなデータ×生成AIの活用は、消費財をはじめ多くの業界に広がっていくでしょう。
